第15話 ダブルブッキング

 土曜日の昼下がり。

 私は、自室のベッドの上でごろごろとしながら、今週一週間の出来事を振り返っていた。 


 親友からの、まさかの告白。

 恋人(仮)という、謎の関係のスタート。


 そして太陽のような後輩、光ちゃんの登場。


​(なんだか、とんでもない一週間だったな……)


 ​特に昨日の図書室での出来事。

 脚立から落ちてきた雫を、またしても私がキャッチしてしまった。腕の中にすっぽりと収まった雫は、やっぱりすごくいい匂いがして、柔らかくて……。


​(って、あああああ! 何を考えてるんだ私は!)


 ​私はぶんぶんと頭を振って雑念を振り払う。

 あれは事故だ。ただの事故。それよりも、私がプロデュースしている、雫と光ちゃんの恋模様のほうが重要だ。

 昨日の共同作業は、少しギクシャクしていたけど、きっと二人の距離は縮まったはずだ。この調子で、週末も何か進展があればいいんだけど……。


 ​そんなことを考えていると、机の上で、ぽろん、とスマホが軽快な音を立てた。


 メッセージアプリの通知だ。相手は雫だ。

 先日交換したばかりの、彼女からの初めてのメッセージだった。​どきり、と心臓が跳ねる。

 なんだろう。用事があるなら、直接電話してきそうなものなのに。


​『茜。明日、空いてる?』


 ​短い。あまりにも、雫らしい用件だけのメッセージだ。


(日曜日……特に予定はないけど……)


 これは、もしかして、あの「お試し期間」の一環だろうか。恋人らしいこと、つまりデートのお誘い……?


 私がどう返信しようか悩んでいると、間髪入れずに、再びスマホがぽろん、と鳴った。


 今度の通知は、別の人からだった。


​『茜先輩っ!  明日、駅前に新しくできたクレープ屋さんに行きませんか?  絶対おいしいですっ! 私、茜先輩と行きたいなーなんて!』


 ​送り主は、光ちゃんだった。

 いつの間に連絡先を……というか、雫の審査は通ったのだろうか。

 そんな疑問はさておき、あまりにも元気なメッセージ。その文面から、光ちゃんの声が聞こえてきそうだ。


 ​私は、スマホの画面に表示された二つのメッセージを見比べた。


​雫:『茜。明日、空いてる?』


光:『茜先輩っ!  明日、……クレープ屋さんに……』


 ​日曜日。二人からの、お誘い。


……ダブルブッキングだ。


 ​私の頭は、数秒間フリーズした。

 そして、次の瞬間。全てのピースが、私の頭の中で運命の音を立てて繋がった。

 ピコン!と、またまた私の回路に、かつてないほどの電流が走る。


​(―――そういうことか!!!)


 ​これは偶然なんかじゃない。

 雫と光ちゃん。この二人、示し合わせたんだ。


 ​きっと、こうだ。

 本当は、二人きりでデートがしたい。でも、まだお互いに恥ずかしくて、誘い出せない。

 だから、私を誘ったんだ。私がいることで、二人きりの気まずさを紛らわそうとしているんだ。私を、ダシに……いや、潤滑油として、デートに誘おうとしているんだ。


​(もう、二人とも、奥手なんだから!)


 ​なんてこった。私のプロデュース能力がなくても、二人は自分たちで関係を進めようとしていたなんて。


 健気だ。健気すぎるぞ、二人とも!

 だとしたら、私が取るべき行動はただ一つ。

 ​敏腕プロデューサー陽ノ森茜として、最高の舞台を用意してあげるしかないじゃないか。


 ​私は、にやりと口角を上げると、まず雫に返信した。


『空いてるよ! ちょうど光ちゃんからも、駅前のクレープ屋さんに誘われたんだ!』


 ​そして、次に光ちゃんに返信する。


『いいね、クレープ! ちょうど雫も明日暇みたいだから、誘ってみない?』


 ​数秒後。雫から返信が来た。


『……そう。光も』


 文面から、どことなく不満そうなオーラが漂っている気がする。きっと、二人きりが良かったのに、なんて照れているんだな。


 ​光ちゃんからの返信も、すぐに来た。


『えっ! 雫先輩も!? そ、そうなんですね! わーい、楽しみです(棒読み)』


(棒読み)って、自分で書いちゃってるよ。きっと、これも照れ隠しなんだな。


 ​よし、完璧だ。

 私は仕上げに、二人が見られるグループチャットにメッセージを投稿した。


​『というわけで、明日は三人でクレープ食べに行こう! きっと、もっと仲良くなれるよ! 楽しみだね!』

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