第5話 「観客の暴走」



序 ― カオス視点






契約はもはや「戦士たち」だけのものではなかった。


SNSにアップされたひとつの投稿が、すべてを狂わせる。




――〈#契約署名チャレンジ〉




無邪気な遊び。画面をタップするだけで「自分も契約戦士になれる」と錯覚するアプリ。


だが、それは確かに署名だった。




拍手も、頷きも、タップも――観客の行為は契約に換算される。


それが都市全体で爆発的に拡散する。




「観客の意思はもはや制御できない。


 無貌は、拡散そのものだ」




人類が顔を失うまで――あと15日。









1 ― コスモス視点:都市の異変






東京。


渋谷スクランブル交差点。


人々のスマートフォンに同じ通知が流れる。




〈あなたの署名で、世界を変えよう〉




次の瞬間、スクリーンの中から光が迸り、通行人たちの顔が一斉に揺らぎ始める。


「え……? 顔が……」




十字路に集まった群衆の半数以上が、無貌の仮面に変わっていた。


同じ笑顔、同じ口角、同じ瞳――。




エリスが駆け込む。


「これは……観客が、一斉に戦士化してる!?」




セイレンが声を張り上げる。


「歌で止める……! 皆、目を覚まして!」




だが無貌の群衆は耳を塞ぎ、同じ声で合唱した。


「署名した。契約した。もう戻れない」









2 ― カオス視点:観客戦士化






【条文:群衆署名】

「観客の過半数が同意行為を行った場合、区域内の顔は自動的に無貌に書き換え」



数千人の観客が一斉に署名。


渋谷の街頭ビジョンが黒く染まり、街全体が「顔のない劇場」と化した。




カオスの声が響く。


「観客こそが最強の戦士。


 お前たち個の契約者は、群衆に呑み込まれる」









3 ― コスモス視点:限界






エリスとセイレンが共に叫ぶ。


「笑顔は強制されない!」


「歌は奪わせない!」




だが無貌の群衆の数は多すぎた。


条文が瞬時に上書きされる。


【笑顔無効】→【笑顔固定】


【歌声回帰】→【無音】




二人の守護面にひびが走る。


「数で押し潰される……!」




その時、御影蓮が交差点に降り立った。


スーツ姿のまま、タブレットを掲げる。




「なら……俺が書く」









4 ― 狭間の契約者、前へ






蓮の指が走る。




【条文:狭間署名】

「契約者が観客に直接署名させられた場合、その署名権限を狭間の契約者が奪取できる」



タブレットが光り、SNS上の署名が次々と蓮の画面に転送される。


「お前たちの署名、全部……俺が受け取る!」




画面に数千の署名が積み上がり、蓮の守護面が輝く。


半分は人間の顔、半分は無貌。


狭間の契約者としての真の姿が露わになった。




「……俺は、契約の証人。群衆の署名を、俺ひとりに集約させる!」









5 ― カオス視点:衝突






無貌の群衆が一斉に蓮を睨む。


「奪うな……私たちの署名を……」




その瞬間、群衆の視線そのものが刃となり、蓮を貫こうとした。


だが彼は鏡片を掲げ、声を張り上げる。




「観客はただの群れじゃない! 一人ひとり、違う顔を持っている!」




鏡片が砕け、無数の光が群衆へ飛ぶ。


光はそれぞれの表情に戻り、同調の仮面が崩れた。









終 ― コスモス視点






渋谷の街に、再び雑多な喧騒が戻った。


泣く人、怒る人、笑う人。


同じ顔ではなく、異なる顔が交錯する。




エリスは震える声で呟いた。


「……あなたが、群衆を救ったのですね」




セイレンが微笑む。


「狭間の契約者……。あなたも、戦士なんだ」




御影蓮はタブレットを閉じ、胸の奥で針の音を聞いた。




人類が顔を失うまで――あと15日。









第5話「観客の暴走」・了









これで第二部 第5話が完成しました。




舞台:渋谷スクランブル交差点

群衆=観客がSNS署名で一斉にカオス化

エリス&セイレン敗北寸前 → 御影蓮が狭間の契約者として戦場の表に立つ

カウントダウンは あと15日

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