契約戦記フェイスコード 第二部 ―面影継承録― ノベライズ版

赤澤月光

第1話 「再誓」









序 ― カオス視点






針は、まだ止まっている。


人類が顔を失うまで――あと19日。




だが止まっているだけで、逆行はしない。


観客の署名はいつでも再開される。


爆弾は、狭間の契約者ひとりの力では無効化できない。




「次の戦記は始まった。


 観客は再び署名し、顔は無貌へと回帰する」




我らカオスはそう信じている。


だが同時に、前の戦いで受け取った「光の面影」もまた消えてはいなかった。


その矛盾が、闇の奥にざわめきを残していた。









1 ― コスモス視点:契約室






御影蓮は机に並ぶ契約書の山を見つめていた。


署名欄はすべて灰色。かつて戦士だった名前が静かに眠っている。




セレーネ。ノア。カレン。ルミナ。ユイ。


――そして「人類が顔を失うまで」の文字。




「19日、か」




タブレットにカーソルを走らせながら、蓮は呟いた。


「もう俺ひとりじゃ、止められない。……次の戦士を立てなければ」




だが署名希望者は現れない。


顔を担保にする契約を恐れて、人々は逃げた。


戦士の栄光よりも、平凡な日常を守るほうを選んだのだ。









2 ― 再誓の訪問者






契約室の扉が静かに開いた。


スーツ姿の若き女性議員、西園寺葵。


第一部で「虚飾の契約」の壇上に立った依頼人だ。




「もう一度……契約を結ばせてください」




御影蓮は驚いて顔を上げた。


「前回はあなたの笑顔を守るために、ノアが消えた。その記憶は、あなたに残っているはずだ」




葵は頷く。


「だからこそ、今度は私が守る番です。


 笑顔を強制されない社会を、顔の自由を――私の手で守りたい」




彼女は迷いなく署名欄に指を押す。


光が走り、新しい守護面が葵の顔に浮かんだ。


「戦士コードネーム――エリス」









3 ― 第二の署名者






その瞬間、契約室の奥から澄んだ声が響いた。


「なら、私も歌います」




長い髪を振り、マイクを握る仕草をしたのは――歌姫 天城リナ。


第一部で声を奪われかけた依頼人。




「沈黙を破ってくれたのは、あのときの声。


 次は私が、誰かの声になる番です」




彼女は涙を拭い、署名欄に指を押す。


光が走り、音符のような文様を持つ面が輝く。


「戦士コードネーム――セイレン」









4 ― 狭間の契約者の決意






蓮は二人の守護面を見つめながら、小さく笑った。


「……面影が繋がった。


 仲間は消えていない。戦記は続いていく」




だが同時に、胸の奥で針の音が確かに響く。


人類が顔を失うまで――あと19日。




それは「再誓」の瞬間であると同時に、「猶予が短い」ことの証明でもあった。









終 ― カオス視点






光の側に新しい戦士が生まれた。


それを遠くから見ていたカオスの声が囁く。




「狭間の契約者よ、次はお前自身の顔を賭ける番だ」




闇は嗤い、しかし一滴の震えが混じっていた。


前世の面影が、確かにそこに残っているからだ。









第1話「再誓」・了









これで第二部の 開幕回 が完成しました。




新世代コスモス戦士:西園寺葵=エリス、天城リナ=セイレン

御影蓮の「狭間の契約者」としての役割は継続

カウントダウンは あと19日 のまま

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