第3話 ヒーローに1番必要なものとは?

ドタドタドタ

 不協和音のような雑な音色が屋上に向かって聞こえてくる。

 先程の先生の音色とは違う酷く雑な音色だ。

 ギギ〜ガタンッ

 扉の錆が複雑に擦れ合いながら、不快な音色を奏でる。

「さくら参上であります!」

 所々に穴が空いているボロボロの帽子を握りしめた、

 どこか自信ありげの女の子が扉の前に立っている。

「え?なんで?

 屋上には人が来ないんじゃないの?」

 先生は酷く驚ろいた様子で急いでタバコを隠す。


 女の子は何かを察した様子で先生に詰め寄る。

「宮島先生!

 なんか臭くないですか?」

 先生の目線が泳ぎ始める。

 先生は引き攣った顔をしながら小刻みに震える体を押さえつけている。


「このままじゃ

 先生がクビになるかもしれない…」

 僕は黄ばんだ靴を揺らしながら勢いよく立ち上がる。

 緊張で震えた喉を抑えながら大声で叫ぶ。

「うわ〜

 最悪だ。タバコ没収されちゃった!

 ちょっとカッコつけようと思っただけなのに〜」

片足を前に出し、顎に手を当てながら女の子の方に目を向ける。

 顎をさすりながらニヤリと笑みを送る。

 ギャハハハ

 彼女の笑い声が緊迫感の漂う屋上を安らぎで包み込む。

「体に泥をつけたデブの男の子がタバコなんか吸わないでしょ。

 ヤンキーのポーズ真似てるけど口元に見える黄ばみが気になってぜんぜんポーズ入ってこないし。

 あのインキャ嘘下手くそすぎでしょ。」

ナイフの投擲のように彼女の言葉が胸に突き刺さる。

「そうだよ…

 所詮僕なんてなんの役にも立たない粗大ゴミなんだよ…

 僕がどう頑張ろうが迷惑をかけるだけなんだ…」

 僕は俯きながらボソッと呟く。

 僕が思い描いていた王道展開とは違う展開に少々メンタルがやられたようだ。

 僕がヒーローになれないことぐらい本当はわかっていた。

 だけど少しぐらい夢見たっていいじゃないか…

 僕は自分の胸を抑えながら心の中で呟く。

 

「君、外見はめちゃくちゃダサいけど案外カッコいいところ持ってるじゃん。

 うちそういう男好きだわ〜」

 彼女はニヤニヤと笑みを溢しながら空をみつめる。


 「案外いいところがあるのはあなたの方だろ…」

 心の中でそっと呟く。

 僕は涙を滲ませながら笑みをこぼす。

彼女はおもむろにポケットを漁るとメンソールと書かれた

 四角いタバコを取り出した。

「なんか勘違いしてるみたいだけどさ、先生がタバコ吸ってるのが嬉しかっただけなんだよね。

 普段は清楚で上品な先生がタバコ吸ってるって超ギャップ萌えじゃん。

 先生がタバコ吸ってることはもちろん言わないけどね〜」

 カチャッ

 ライターの火が白い細長い棒を赤く染め上げる。

「実は私もタバコ吸いにきたんだよね〜

 教室にいると周りに合わせないといけないからチョーきついんだよね。」

 彼女はニコッと笑いながら先生の方を見つめる。

 先生は少し安堵した様子で肩を撫で下ろす。

先生は少し複雑な表情をしながら、言葉を紡ぐ。

「え〜と…

 確か、宮原さんだよね。

 未成年はタバコ禁止だったはずなんだけど…」

 先生は心苦しそうに何か葛藤した顔をしている。


「別にチクりたいならチクってもいいっすよ。

 正直学校おもんないし…

 辞めれる理由ができるからむしろありがたいっしょ!」

 宮原は空に浮かぶ雲を眺めながら瞳の奥に寂しさを忍ばせながら、笑顔で言った。

「う〜ん…」

 先生は酷く悩んだ顔でその場にうずくまる。

「そうだね…

 これは正直に伝えるべきだ。

 私がタバコを吸っていたことも彼女がタバコを吸っていたことも…」

 先生は立ち上がるとゆっくりと扉にあゆみ始める。


二人が立ち去ろうとした時僕の頭にある感情がよぎる。

 この二人を手放して本当にいいのか?

 いやダメだ。

 僕のエゴだってことはわかってる。

 だけど二人を助けたい。

 二人は僕と同じで居場所がなかっただけなんだ…

 社会の常識に合わせれなかったら排除なんてあんまりすぎる。

 僕は唇を噛みながら、先生の元に大急ぎで走る。

「な、何するのよ!」

 先生の怒号にも構わずに僕は先生のポケットからタバコとライター奪う。

 カチャッ

 ムンムンと湧き上がる炎を間近で体感しながら、

 見慣れた白い棒にほむらを灯す。

「た、タバコは僕が吸ったんです!

 ほらみてくださいよ。

 いつも吸ってるんで余裕なんですよ。」

 僕はぎこちない持ち方でタバコを持つと、

 フーフーと息を吹きかけながら、口元に近づける。

「アッチ!」

 タバコの先端が指に当たり、アタフタと慌てふためく。


 ギャハハハ

 二人の笑い声が屋上に響き渡る。

「タバコに息は吹きかけないよ。

 持ち方もグーで握ったらそりゃ熱いよ。

 君本当に不器用なんだね。」

 二人は顔を合わせると何かを決心した顔でこちらに振り向く。

「君は本当に優しいんだね。

 君の優しさに今回は甘えちゃおうかな。」

 二人はそう呟くと、タバコをポケットの隅に仕舞い込んだ。

「僕はヒーローになれたんだ…」

 まぶたから我慢していた涙が込み上げてくる。

 鼻水を垂らしながらどこか不器用な顔して二人をみつめる。

「泣いてばかりのヒーローは珍しいっしょ。」

 宮原は顔を背けながら少し恥ずかしそうにしながら、僕の肩に寄り添う。

「こんなに頑張り屋さんなヒーローも珍しいね。

 篠原君といういい生徒を持てて先生嬉しいな。」

 先生はどこか悟ったような優しい瞳で僕に優しく語りかける。

「また屋上で会おうね!

 私達これからは秘密を共にした仲間だからね。」

 二人は満面の笑みでそう呟くと屋上を後にした。

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ひとりぼっちのヒーロー 欠陥品の磨き石 磨奇 未知 @migakiisi

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