第2話 ヒースクリフ少年の遺書
僕のもとに、ひとつの手紙が届いた。差出人はヒースクリフ。
ああ、15才の志願兵の子だ、とすぐに思い出す。
僕、エーデルワイスの、所属するハイデンレースラインは上位階級のエリートの集うグループ、主に王さまの身辺警護や軍全体の作戦立案を担う。古来から王さまに、仕えていた騎士一族や貴族、魔法使いの守る基本は男児だけの部隊だ。僕は魂が男の子です、だから体は……規格外なんだけれど。
今回、手紙が来た志願兵の子は、実戦部隊のほうに所属する。……していた、なのだろう。グングニル・グループの通信網を使って志願兵の手紙……おそらく遺書が許されて届いたということは。
手紙を開く。
拝啓 高嶺のお花のお姫様へ
宛名の精一杯の丁寧さとユーモアとを込めた1文を読み始めて、手紙に数滴の水が落ちたことに、気がついた。
僕は泣いていたのだ。
激戦区に飛ばされた志願兵が生き残る可能性は、騎士が馬に乗り、指揮できる歩兵を連れていた時代と違って圧倒的に戦闘人員の増えた今は、砲撃や戦闘兵器の開発が、進めば進むほど低くなる。前線であればなおさらだ。
初めて戦場へ行く前に、高嶺のお花のお姫様に会えたから、幸せでした。
この内容を、残した彼に、会うことは二度とない。
子どもも大人も傷つき、殺し合う。それが戦場の当たり前。
何故その戦争を始めたか、は知らなくても……領地に敵である人殺し集団の他国の部隊が攻めてくれば反撃するしかない。実行部隊のグングニル・グループならば国境での守りが内地の家族の守りに直結することだから。
僕は、戦争がそもそも起きないように外交で敵国となったサンシティに不戦条約を立案して結んだけれど。簡単に王が疑心から破棄して全方位戦争の終わりのない戦いを始めた。
軍人は血も涙もない、と印象付けとして勇猛さをイメージさせたいから言う人間も多い。けれど全方位戦争なんて、どこまで戦線が延びるかも分からない実戦配備のグングニル・グループは戦意が削がれて当たり前だと思う。
ヒースクリフ少年は、無謀な、戦争のために死んだ。僕も軍人ではあるけれど。マインカイゼルに、僕だけは悲しみに泣くことを許されているから。
泣くわけにはいかない男児の代わりに、戻らない新兵のために涙をこぼす。いつだって慣れない。
戦争なんて、ハナからない時代に、なればいいのに。
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