魔法
異世界に来てから3年が経った。
流石にもう何日経ったかは数えていない。けれど、家族が誕生日をきちんと祝ってくれるので、それで何年経ったかが分かる。
とりあえず、ここ2年くらいで新たに分かったことを話していくか。
まず、1週間の日数が異なる。どういうことかというと、1週間が8日で構成されているということだ。この感じだと1ヶ月や1年の日数もズレてそうだが、まだそこは分かってない。そもそも、3歳児が1週間とか1ヶ月とかを気にしてる方が不自然だから、親にも聞けない。
他には魔法があることが分かった。そう魔法だ!魔法を初めて見たときは、マジで興奮したな。
あれは、1歳と数ヶ月くらいのときのことだった。
俺はここ最近になって視力が成長してきて、一人歩きができるようになってきたので、家の中を1人で徘徊していた。
もうすぐで昼食どきだったので母親を厨房に見に行ったところ、母親が指から小さい火を出して、炭に火をつけていたのだ。
俺はそれを見てすぐに、目を輝かせて指を指しながら母親に尋ねた。
「それ、それ、なにぃ?」
すると、母親は俺が来たのに驚きながらこう答えた。
「フリーク!あぁ、これはね、火の魔法よ。」
それに俺は多分魔法って言っているのだろうと思いながら、一応こう返答する。
「まほう? それ、なにぃ?」
母親は指から火を出しながら答える。
「魔法ってのはね、こういう不思議な力のことよ。」
何言ってるかは分からないが多分魔法ってことだろうと思いながら、また言葉を返す。
「すごい!すごい! おちえて!」
「ん〜、フリークにはまだ早いかな〜。おっきくなったら教えてあげるね。」
「わかた!おっきくなる!」
まあこんな感じだったかな。自分でもびっくりするくらいの名演技だったと思う。
魔法って単語自体はまだ分からなかったから、素で喋ってしまった部分もあった。でも、興奮していたわりには、我ながらかなりの名演技だったと思う。
ところで、やはりこの世界に魔法はあったな。もしかしたらないかもと心配してたけど、無事にあってよかった。
他にわかったことは、新たにわかったわけではないけど言い忘れてた風呂についてくらいだな。
この世界は魔法を使って水を張れるからかは分からんが、結構な頻度で風呂に入ってる。
もちろん毎日ではないけど、2、3日に一度は入っている。衛生観念が優れてるのか、ただ単に風呂が好きなのかは分からないが、風呂がほどほどに好きだった俺からしてみれば嬉しいことだった。
最近は近所の子供と広場で遊んでいるのだが、今日は親に連れられてなんかの集まりの場所に向かっている。多分父親の仕事仲間との集まりだろう。そんな感じのことを言っていたからな。
両親と手を繋ぎながら歩いていると、父親が俺に話しかけてくる。
「フリーク、向こうに着いたらパパのお友達の子供にフリークとおんなじ年の子がいるから仲良くしてあげてね。」
「わかった!なかよくする!」
父の言葉に元気よく返事をした俺に、母親は俺の頭を撫でながら褒めてくる。
「フリークはパパの言うこと聞けて偉い子ね〜。」
母親の言葉に胸を張りながら俺は答える。
「うん!ぼくえらい!もっとほめて!」
「フリークは偉い子よ〜。偉いね〜。」
そうこうしているうちに、会場に着いた。
そこは、おっきいご飯屋さんだ。窓ガラスや、建物の綺麗さでちょっと高めのご飯屋さんっていう感想を抱く。
中に入るとすでに結構な人が集まってた。俺たちが入ってきたのに気づくと、その中の赤髪の男が大きな声で呼びかけてきた。
「やっときたか!アレック!これでみんな揃ったな!」
「おう、待たせたな、リート。他のみんなも待たせてすまんな。」
「別にみんな気にしてねぇよ!じゃあ始めるか!アレックたちも席ついて、飲み物持ってくれ。」
そう促されて、俺らは適当に近くの席に座り、飲み物を手に取る。
「それじゃあ、一年間の仕事の頑張りを祝して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
乾杯が終わるとみな思い思いに談笑し始める。
俺はこの世界にも乾杯の文化はあるんだ〜と思いながら、周囲を見渡す。
そして、なんかみんないろんな髪色の人がいるな〜とボケーとしていると、父がちょっと話してくるわとどっか言ってしまい、母は隣の人と話してる。
さっき誰かと仲良くしろって言ってたのに、何してんだこの人たちはと思いながら、俺と同年代の子がいないかと探していると、後ろから声がかけられた。
「ねぇねぇ、君がアレックの子供のフリークくん?」
声の方へ振り返ると、そこにはただ「美しい」という言葉では言い表せないような女性が立っていた。
彼女の漆黒の髪は夜の闇を閉じ込めたように深く、肩から腰へと自由に流れ、その長い髪が光を受けてしなやかに揺れるたび、艶やかな輝きを放つ。
紅玉を思わせる瞳は鮮烈で、見る者の心を射抜くほどの力を秘めている。若さに満ちながらも、その眼差しにはどこか底知れぬ妖しさがあり、一度見てしまえば目を離すことはできない。
彼女が纏う衣は異世界めいた意匠を備えながらも華美すぎず、その存在をより一層引き立てる役割を果たしている。
ただそこにいるだけで、目にした者の心に消えぬ余韻を刻む──彼女はまさしく魔性的な美を体現していた。
そんな彼女の姿に見惚れて、言葉を忘れていた俺に、彼女は微笑みかけながら声をかけてくる。
「君がフリークくんで合ってる?」
「そ、そうだよ!ぼくがフリーク!おねえちゃんはだぁれ?」
「私は君のお父さんと同じところで働いてる、ラスティエルって言うの。気軽にラスティお姉ちゃんって呼んでね!」
「ラスティおねえちゃんは、なんでぼくのとこきたの?」
「アレックからフリークくんのことをよく聞いてて、一度会って見たかったのと、誰かを探してるっぽかったから、手伝ってあげようと思って。」
「そうなんだ!くるときに、パパがぼくと同じくらいの人となかよくしてって言ってたけど、パパどっか行っちゃって。」
「ああ、多分その子はリートの子供のファルミラちゃんのことね。私も探すの手伝ってあげる。」
「ありがとう!ラスティおねえちゃん!」
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ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。至らぬ点も多いかと思いますが、温かくご指摘いただければ幸いです。
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