夫婦の仁義なき戦い

《side フリークの両親》

 部屋の中には、一組の夫婦とその子供がいる。夫婦の妻は子供をうっとりと眺めながら、夫に話しかける。


「ねぇねぇアレック〜、フリークって本当に可愛いわよね〜。ほんと目に入れても痛くないし、食べちゃいたいくらいよ。」


 彼女の髪は、陽の光をまとったような明るい金髪に近いアッシュブロンドだ。光を浴びれば柔らかく黄金に輝き、まるで薄絹に光が透けるような透明感を放つ。わずかに灰色の気配を含むことで、華やかさに落ち着きが加わり、ただの金髪にはない上品な柔らかさがある。肩の下まで流れる髪は毛先にかけて自然に波打ち、風に触れるたびに光とともに揺れる。

 瞳は深いエメラルドグリーン。澄んだ緑の奥に淡い青が混ざり合い、角度によってはまるで湖面に光が差し込んだ瞬間のようにきらめく。

 顔立ちは精緻で整っており、なめらかに丸みを帯びた頬、通った鼻筋、薄紅に色づいた唇が穏やかな表情の中に品格を宿している。肌は雪のように白く、光を浴びればほんのりと温かみを帯び、清らかさと生命感が感じられる。

 装いは淡い色調のブラウスとスカート風の装い。飾り気はないが、そのシンプルさがかえって彼女の金色にきらめく髪と深い瞳を際立たせる。


 そんな彼女の言葉に、夫は言葉を返す。


「エルは本当にフリークが大好きだね。僕もこうしてみているだけでも癒されるよ。流石に冗談だろうけど、食べちゃダメだからね?」


 夫のアレックは、落ち着いた色合いの薄い茶髪をしていた。派手さはないが、整えられた短い髪は清潔感があり、彼の誠実さをそのまま映し出している。

 瞳はサファイアのような澄んだ青で、柔らかく子を見つめるその眼差しには、静かな温もりがあった。強く主張する輝きではなく、深く澄んだ光が心に穏やかさをもたらす。

 体つきは決してがっしりしているわけではない。むしろ細身に近いが、姿勢や立ち居振る舞いからは、しっかりとした芯の強さがにじみ出ていた。優しい物腰と、どこか頼りがいのある静かな存在感が、彼の人柄を自然と物語っていた。


 そんな感じで夫婦は穏やかに仲睦まじく談笑をするが、妻のある一言で場の空気が一変する。


「ところで、フリークはママとパパ、どっちを先に呼んでくれるのかしら?」


 アレックは思わず真剣な顔になり、エルと視線をぶつけ合う。


「……いや、当然『パパ』だろう? なあ、フリーク?」


「ふふっ、何を言ってるの? 赤ちゃんが最初に呼ぶのは『ママ』って決まってるのよ!」


 互いに譲る気のない夫婦の視線は、ゆりかごの中でご機嫌に喃語を漏らすフリークへと注がれる。

 小さな「あー」「うー」が、今や王位継承の争いのような重みを持って響いた。







 そしてその瞬間は、あまりに唐突に訪れた。


「ま……ま……」


 二人の耳がぴくりと動く。


「ま、まま!」


 部屋の空気が凍りついた。次の瞬間、エルの顔は歓喜で一気に輝いた。


「きゃあああ! 今『ママ』って言ったわよね!? ねぇアレック、聞いたでしょ!?」


「……ま、待て、これは偶然だ。ただの喃語に――」


「偶然なわけないわ! ちゃんと意味があって言ったのよ! ほら、フリーク〜、もう一度言って?」


 エルは嬉しさで目尻に涙すら浮かべながら、ゆりかごの中の小さな手をぎゅっと握る。

 アレックは肩を落とし、悔しそうに頭をかきながらも、結局はわが子の初めての言葉に笑みをこぼさずにはいられなかった。








 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

《side フリーク》

 ふぅ、やっと一仕事終えたぜ。ようやくママということができた。パパはまた今度言えばいいだろう。いっときは空気が修羅場っぽくてなんか俺やらかしたか?とも思ったが、多分あの感じは俺がどっちを先に呼ぶのかを争っていただけだろう。


 今、転生してから8ヶ月くらいがたった。最近やっとハイハイができるようになった。この世界は子育てに関しては、地球の中世ぐらいの頃よりもだいぶ発展しているらしく、ハイハイしようとしたけど、抱っこされて家の床で歩いた。毛皮か何かの敷物が置かれていた床だった。


 そう言えば、この世界のご飯について話し忘れていたが、離乳食みたいな感じでスープに浸した白パンを食べてる。結構美味しい。

 白パンが一般的なのかどうかもまだ分からないが、ひとまずご飯は美味しそうでよかった。

 とりあえず、不自然な感じもなく行動できてると思うから、この感じで頑張っていこう。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。至らぬ点も多いかと思いますが、温かくご指摘いただければ幸いです。


ちなみに、アレックはアレクサンダー、エルはマリエルの愛称です。

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