タイム トゥ ソウル Ⅰ (彷徨う魂)

天上 雅雅

第1話 プロローグ

               プロローグ


 あたりが真っ暗で、何も見えない。

 時折ときおり、目をくらませる閃光せんこうの衝撃に眼は強い光りで機能を失い、強い残像ざんぞうのせいで修復しゅうふくに間が掛かる。

 その上、耳をつんざ轟音ごうおん、雷が周囲しゅういの木々を振るわせ鳴り響いていた。

 そして、稲妻いなずま所狭ところせましとたる所に光のアロー(矢)を打ち放していてくる。

 雲は黒々と厚く、麓よりすこし離れた街々など地上の灯りを総て吸い込んでいるかのようだ。

 その頭上の光を吸い込んだ雲の中には、何か生き物のように光が不気味にうごめき渡ってく。

 僕は、そんな大粒の雨の中、山の中をどれほどのあいだ彷徨さまよい続け、そして何度も転んだのだろう。その度に、体を泥と化した土や岩にいやという程打ちけた。それでも僕は立ち上がり、よろめきながらも逃げ、徘徊はいかいをし続けた。それは、何か僕の背後には強く感じる恐怖きょうふに追い立てられ、立ち止まってはいけないと、僕の本能がげている。

 どれくらい前なのか記憶も曖昧あいまいになったが、一緒にこの山に入った仲間ともはぐれた。

 僕の体力は、もう限界げんかいだ。このまま僕の人生は終わってしまうのか? もう僕には、逃げようとする気力さえも体力と共に失ってしまった。僕に残されたものは、ただ後ろから来る恐怖に覚悟かくごを決めること……そして、僕は木に寄り掛り、それを待った。しかし、僕の思惑おもわくで待ちかまえていたとことは違う処に、僕は大きな一撃いちげきを受けた。

 それは、僕が山の頂上ちょうじょうであろう、と思う方向に向かい、しゃかまえ態勢をとり待っていた僕の左の横腹への突然の攻撃だった。

 僕は、その衝撃しょうげきに突き飛ばされ、一気に転げ落ちて行く。際限さいげんなく転げ落ちながら無数に感じていた痛みが、一瞬止んだ。

 体が軽くなった感じだ……だが、しかし何故なぜと考える間もなく、今度は体全身に強い痛みの衝撃が来た。どうやら僕は、想像をこばみたくなる程の高さのあるがけの上から落ちたのだろう。

 息も出来ない程の全身の痛みだ。

 意識もうすらいで行く。

 僕は、これで終わるのだろうか? そして、今度は何処どこへ行くのだろうか? いや、僕は何処にも行きはしない……これで、僕は本当に終わるんだ。

 本当に? 僕は、これで本当に……さっきまであった、痛みも今はなくなってきた。これで、僕は本当に? そして、目の前が真っ白に……今は、もう何も見えない。

 僕は、本当に、これで……。




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