第7話 港町の花火大会

オレは聖 与世夫、四十五歳、無職。

 今日は港町の花火大会に来ている。もちろん入場料や観覧席には金を払わない。節約の達人にとって、新聞紙と炭があれば自作の花火も可能だ。

 金を使わず楽しむ。それが贅沢というものだ。人の生死など、オレには関係ない。



---


私は地元の中学生、拓也。

 毎年楽しみにしていた港町の花火大会。今年は花火職人の展示を見学中、倉庫で爆発が起き、職人が死亡した。

 現場は爆風で荒れ、火薬や花火の残骸が散乱している。外部から侵入した形跡はなく、完全密室のようだった。



---


与世夫は、倉庫脇で新聞紙を丸めて火種にしているところを目撃された。

 ふと口を開く。


「古新聞は火薬の乾燥に便利だ」


 一同は凍りつく。

 朝比奈刑事の視線が鋭く光った。


「……なるほど。犯人は新聞紙を利用して火薬を仕込んだわね。乾燥方法や設置場所も熟知していたはず」


 まさか、与世夫の節約発言が、爆発事件解決の鍵になるとは誰も思わなかった。



---


捜査の結果、ライバル職人が犯人と判明。

 大会で目立つため、自分の技術を際立たせるために被害者を殺害し、爆発を偽装して事故に見せかけたのだった。

 与世夫の「新聞紙が便利」という不用意な発言が、火薬設置の手口を特定する決定的なヒントとなった。



---


「子供の前で危険DIY解説すんな!」

 朝比奈刑事が顔をしかめる。


「知識はタダだ。学べる者だけが得をする」

 与世夫はのんびり肩をすくめる。

 またしても、人でなしの無職が、事件解決の重要なピースとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る