最終日に道徳を
__20☓☓年 8月31日
本来ならば夏休みである時突然授業が始まった。
教科は道徳。
こんなもの小学生で終わりだろうと思っていたら突然始まった。
そもそもこちら側の世界では授業時間が決まっておらず、不定期で突然始まって、偶然そこにいなかった生徒は欠席扱いとなる。意外と面倒ですよね。
私の仮名はユラと言います。
今日は突然授業が始まりました。
なんと教室に残っているのは私含め6体のみ
「さぁ授業を始めるぞ!!」
なんて元気そうにしているのはここで唯一の人間教師、
ここに努めて4年は経っている。
そして今日おかしいことがある。
それは先生が元気なことであった。この教師は基本根暗で何を考えているかもわからず時折死にたい死にたいとぼやいている教師であるし、よくヒステリックになったりと情緒不安定であった。、ところが、今はどうだ。一生消えず存在していた目の下のクマも真新しいリスカ後もいつも感じる不潔感も一切ない。
なんて不思議なことなんだ。
「先生..あのどうかされたんだですか?
なんか今日は元気...?といいますか...」
機会の体をしたロキが手を上げて言い放った。私も同意見だ。
「えっあっそのっなんでもないんだ大丈夫。」
明らかに様子が変だ。
時刻は3時45分ちょうど深夜になってハイテンションでもかましているのだろうか。
「本当ですか〜?」
「大丈夫大丈夫。気にするなって」
バレッタが再度聞いたが大丈夫としかやはり返ってこなかった。
「それでは授業を始めます。もうこれでこの授業はやりません。
よく効いておいてください。本は2冊使います。
手渡されたのはよく見る既存のやつと手書きで書いたものをまとめたようなものだった。
「じゃあまず一冊目..。きれいな方とって」
そんな不信感を持ちながら授業は始まった。
内容は小学生でもわかるほどに簡単なもの
人を助けましょう
きれいな心を持ちましょう
いじめなんてしてはいけません
頑張らないといけません
人を殴ってはなりません
自殺はよくありません
リスカはいけないことです
ODは絶対にだめです
体に良くないです
いつも笑顔でいましょう
悲しいときは一人で誰にも見られないように泣きましょう
自分の存在全てにおいて一番と思ってはなりません
みんなに合わせて生きましょう
貴方が死んだら悲しむ人がいっぱいいますだからどれだけ辛かろうと苦しかろうと消えたかろうと死んではいけません
怒ってはなりません
笑いましょう
他人より自分を尊重してはなりません
常に我慢も大事なことです
保護者の言うことは絶対に聞きましょう
喧嘩はだめです
口喧嘩であろうとだめです
対立は邪魔です
そんなに人間に生きてる価値はありませんがそれでも生きなければなりません
理由を深堀りせず信じましょう
聞いていてでたのはだいたいこんなものだった。
最悪の授業だ。まるですべて自分が悪いとまくしたてられている気分だった。
結局なにが言いたいのかよくわからない教材だ。
先生が何故この授業にしたのかわからない。
そう思いながら肘を机に付けていたときだった。
ふと耳元で声がする。よく聞いている声。
『あの人は今日で死ぬよ。僕頑張って止めたけどもう無理だから今日が最終日、
最悪な先生だったけど今日は送り出して上げてね』
左上視線の先には半透明にも見える黄髪の少女が一瞬だけ見えた。
なるほど、今日でこいつはいなくなるのか。
「おい、ユラちゃんと聞いているのか?」
「はいはい聞いてます。聞いてますので思う存分授業を続けてください。」
「ちゃんと聞いとけよおー」
「はーい」
適当に返事をして2冊目と呼ばれる本を手に取った。
「これはある男性の死ぬまでの人生で最後に書かれたものす。
これを読み終わって感想を提出したら授業は終わりだからはやめにやるように」
そう指示されたが、とても読む気にはなれなかった。
しかしこれを彼を送り出すための儀式のようなものだったらまずいと思い薄っぺらい紙をめくる。
『こんな俺がいなければ世界はもっと楽だったのかもしれない。突然こんな事書いてもただの変態としか思われないかもしれないが俺はもう限界だ。
それだけ働いたって給料はでない。上の人間にはお前が無能のせいだと言われた。本当は気づいてる、ここにいる奴らは全員普通じゃない。
俺がこんなところの教師になんかならなければ妻と娘を心中に追い込むことにはならなかったのに、俺が無能のせいで2つも命を捨ててしまった。いやもっといたかもしれないな。
鬱で動けなかったけど生活のために出勤した。
それももう限界だ。ようやくたどり着いたいじめもなくできるというのに上の連中にどれだけ苦しめられたかもう無理だ。なにもかもをうしなった。
今できるのは酒に溺れて情緒が不安定なまま学校に来て生徒にえばり散らすだけ。本来だったら多分生徒の立場は想像を絶するほどに強いというのにずっと迷惑をかけていた。段々無断欠勤も増えた。昼夜逆転したせいでろくに授業もできていない。
これだったらあたまに石を投げつけられようと向こうにいたときのほうがやくにたっていたんじゃないかと時々思う。
嗚呼こんなの読んだってなにも面白くないよな。
でもどうせ誰もこれは見ない。存在しない遺書だから。
ロープは買った。
ちょうど結べそうな鉄骨もあった。
屋上。
もういい
俺は死ぬ。そして家族に謝りたい。
でも自殺は地獄行きだってけか。
それでもいいもうこんな苦しいなら死んでしまおうと思う。
さようなら』
最後にはその先生の名前が書いてあった。私が読み始めたタイミングで先生はどこかに言ってしまった。
言葉通り先生はどこかいや、屋上へ行ったのだろうか。
「ねぇ」
「なぁに?」
バレッタが反応してくれた。
「教室に飾ってある花持っていかない?」
「いいよ。」
唐突に言ったのにもかかわらず即答で返ってきた。
そしてすかさず切り替えて
「おい男子ー。とりあえずなんでもいいから紙にありがとうございましたって書いとけ」
「「りょーかーい」」
「あとは頼んで良い?」
「いいよこのベレッタにまっかせなさい!」
えっへんといったポーズを取る。
「ありがとう」
そういってオンボロい椅子をさっきのノートを持って立つ。
ゆらりゆらりとあるきながら教室のドアを開けた。
そして廊下と階段を遺書を持って歩く。
全く掃除されていない屋上前の階段をゆっくり上がって、屋上のドアノブに手をかけて開く、
屋上の更に上に立つ建物からは太い鉄骨がはみ出している。
無骨なそれは所々酸化している。
そこに見えたのはゆらゆらと揺れる人影。
夏だから少しだけ腐敗した匂いも鼻をかすめる。
(先生....)
赴任してきてから約5年彼なりに頑張って授業してくれた。
特に恨みはないし、悲しくもない。
ただこの世界はなんでこんなにも生きにくいのか、それだけがわからなかった。
鉄骨からロープを下げる。死んでまもなくの彼の顔はどこか爽やかだった。
きっと彼は地獄には送られないだろう。
うしろからはおーい、とロキやベレッタ達の声がした。
花束を先生だったそれの上に置く、そしてここに全員を呼んで手を合わせた。
自殺直前の笑顔、どれだけ苦しかったのだろうか、私達にはわからないけど
死ぬ直前笑顔で接して来てくれたのがちょっと虚しく感じた。
また先生が減ってしまった。
もうこの学校に人間はいない。
ならば供養ということで食べてしまおう。
そう誰かだ言った____。
【短編】異端者共の両奇譚 裏日常ver. 凡才 @shingetsu0878
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