第2話【目覚め】

「めんどくさく感じるんだよね。」


--その声が、

エリオットの耳にやけに鮮明に響いた瞬間、視界が白く弾けた。

次に目を開けたとき、

天井の照明が、目の奥を焼くように明るかった。

息が詰まる。喉が乾いている。

頭の中は、夢と現実の境界線がぐしゃぐしゃだった。

左腕には、注射の痕。

アンプルの割れた破片が、テーブルの隅に落ちていた。


「また薬を増やしたのか......」


低く、自嘲するような声が漏れる。


エリオットが、ダミアンへの脱獄の手伝いをしていた事がFBI本部に発覚し、懲戒免職となってから5ヶ月。

ダミアンはどこかに消え、エリオットは職を失い、そして今は郊外のアパートメントに住みこみ、楽しくもないバイトをこなしつつ細々と生活をしていた。


”めんどくさく感じるんだよね"


ダミアンの声が、まだ耳の奥に残っている。

過去。

忘れたくても、忘れられない。彼との記憶。

エリオットは額を押さえて、ゆっくりと顔を上げた。


目の前の壁は灰色のまま。

ただ、そこに--まるで実態があるように、ダミアンの姿が浮かんで見えた。


回想の余韻の中で、彼はぽつりと呟く。


「俺は.....あの時から.....」


その先が出てこない。

何を感じていたのか。

何を求めていたのか。

何を、壊したかったのか。

いや、壊されたのか。

ノックの音。


現実が、ドアの向こうから戻ってくる。


「エリオット?居る…?ここであってるのかしら…」


聞き覚えのある声に気付き、エリオットはまだぼやけた思考を保ちつつ、無言で立ち上がる。


足元が少しふらつく。

机の上に落ちていた破片をそっと拾い、ポケットに入れた。


まるで、

“夢の続きを、現実に持ち込む”ように。

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ダミアンを壊すには @suphuh

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