本日も諸天は○○です!

たかぜ

第1話 手形と型抜き人形は禁止なようです。

「ダメです」

「なんと、殺生な」

「げんてい品でらんだむ品なのですぞ」

「手形を使った買い物は、危ないです、追加の購入は致しかねる」

「「うぅぅ」」

 こっちは目の前で繰り広げられている光景を、茶をすすりながら眺めていた。

 今日は、大人気刀剣ゲームのミュージカル版グッズの発送日であった。

 ちなみに、この光景はこっちにしか見えていない。

 三姉妹の末っ子滝川ことり、通称こっちは、生まれながらにして世の中で霊感があると呼ばれる分類の人だ。

 上二人の姉たちは、そのことを知ってはいるが見えないので、話に聞く限りなのだが、特に長女がそのやり取りを気に入っている。

「あの、お姉ちゃんがその人形当ったって連絡きたよ」

 その言葉に三人がびくりと反応した。

 一人は牛コツのような骨を被り、平安貴族のような恰好をした長身の男性、通称大きい人。

 もう一人は、頭巾をかぶり着物を着た女性、通称ずきんさん。

 そして、最後の一人はビキニの水着にパレオを腰に巻いた、ポニーテイルの女性。通称せっちゃん。

 本当はしっかりとした名前があるのだが、日本語の発音では表現しがたいので、こっちはそう呼んでいる。

 本人たちも、名前にこだわりがないので了承している。

 普段は人に災いをもたらす、魔と呼ばれるものをハンターのようにギタギタのバタバタに倒していく諸天という、曼荼羅にも描かれる存在。

 だが、今日は少し様子が違う。

「それは本当ですか!」

「あぁ、お姉様!」

「あなた方、お姉様にはたかるなと何度も!」

「「だかってなどはおらぬ」」

 ずきんさんは、そそくさとこっちの携帯をのぞいた。

 せっちゃんに至っては小躍りしている。

 大きい人は、頭を抱えていた。

「ねぇ、それで三人はどうなったの?」

 長女は、電話でこっちにワクワクした声色で尋ねた。

「……お姉ちゃんは、剛運だって」

「金剛力士像の剛?」

「そうそう」

「姉は、推しが自引きできないから、そう思わん」

「だよねーー」

 こっちの声色は少し疲れていた。

「で、なんて呼んでたの? アクリルスタンド」

「型抜き人形」

「…相変わらず、言いえて妙な古風な物言い」

 こっちの目の前では、ルンルン気分のずきんさんとせっちゃんが、そしてそれをチベットスナギツネのような顔でみる大きい人がいた。

「クレジットカードが手形で、型抜き人形かーー」

「お姉ちゃん、楽しんでいるでしょ」

「うん」

「もーー」

 グッズ管理はこっちの担当であった。なぜなら三人には肉体がないので、自らの手で飾ったり、動かしたりができず、すべてこっちにお願いという指示をだして行っているのだ。

「飾るのも、色々注文が入って大変なんだから」

「まぁまぁ、これを見たまえ」

 長女が送った画像、それにこっちは息をのんだ。

「おねーちゃん、すごい!」

 それは、こっちの最推しのキャラのアクリルスタンドだった。

「ちなみに缶バッチも出た」

「いつの間に買ったの?」

「なんか、買わなきゃいけない気がしたんだよね」

 その言葉に、大きい人が反応し、ルンルンお嬢さん方が固まった。

「やはり、お二人!」

「いや、その……」

「これには、訳が」

「こっち、どうしたの?」

「いや、大きい人が二倍に膨らんだ」

「……何? やっぱり諸天さんが、私の中に入ったりしたん?」

「そうらしい」

「へぇ~~、全然わかんなかった、あはは」

 あっけらかんとした長女とは対照的に、お叱り雰囲気の目の前の光景にこっちは、肩を落とした。

 ちなみにお説教は2時間近くあったとか、なかったとか。

 諸天さんは何事にも全力である。

 諸天さんは今日もオタク活動に全力であった。

「昨日、鬼の首とってきたとは思えない、しょんぼりぶりだな」

「え? 何々?」

「いや、こっちの話だから気にしないで」

「気になるわ~~」

「お姉ちゃん!」

「えへへ」 

 こっちは、そっと電話を切った。

 そして、これから長女から送られてくるであろう、アクリルスタンドをどう飾るか、頭をひねるのであった。

 



 

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