「調子に乗っている」という表現の考察

ガビ

「調子に乗っている」という表現の考察

 調子に乗っている。


 このことで、仲間外れにされたりイジメられたりされたことがある人は多いのではないか。


 この事態に、僕はこう思う。

 調子に乗っているのが、そんなに悪いことなのだろうか。と。


 スマホでその意味を調べてみたことがある。

 画面には、こんな説明が記載されていた。



 1.仕事などが順調に進む。

 2.おだてられたり持ち上げられたりして、いい気になって物事を行う。



 まず、1の方はまるで責められる謂れは無い。

 別の言い方をすれば絶好調ということだし、その状態でいることにより、他者にも良い影響を与えるだろう。


 2は、天狗になっている。みたいなニュアンスだろうか。


 確かに、見ていて気持ちのいいものではないだろうというのは分かる。しかし、だからと言って攻撃して良い理由にはならない。


 攻撃して、感情にブレーキが効かなかった結果、殺人を犯すことなどあってはならない。


 急に、こんな極論を言い出して申し訳ない。

 一応、これには理由があるんだ。

 僕が、その愚かな犯行の被害者であるから。



\

 高校2年に進級してから間もない4月の放課後、僕はクラスの1軍グループに呼びだされた。


 男女比が5:5の理想的な構成だった。顔も悪くない彼らは教室での発言権が強い。


 それに対しての僕は、いわゆるボッチだった。

 もちろん、友達は欲しかったが作り方が下手だったのと、面倒くさがりな性格が災いして高校での友達は0だ。


 寂しいと思う時もあるけど、まぁいいかと気軽に過ごしていた。


 よく、ドラマとかでボッチの学生が便所メシをするシーンを観るが僕はフツーに教室で食べた。

 トイレで食べるとか、面倒臭いし。


 フツーに、自分の席で1人でコンビニで買ったパンを食べていた。

 その際に、周りが友達と楽しそうに食事しているのを見ながらパンをかじり、食べ終わったらその場で本を読む。

 それが僕の昼休みの過ごし方だった。


 驚くことに、この過ごし方が1軍グループにとっては「調子に乗ってる」らしいのだ。


「お前さ、俺らのこと馬鹿にしてんだろ?」


 風が強く感じる屋上で、1軍グループの中でも一際声が大きい男子が凄んで言う。


「いや。別に……」


 実際に、僕は彼らを馬鹿にしてはいなかった。

 なんなら、楽しそうで羨ましいなと思っていたくらいだ。


「ウソつけ! 目を見れば分かんだよ!」


「え。目だけで、どんな人間か分かるの? スゴイな。やり方教えてよ」


 素でそう返した僕に、声デカ男子は殴りかかってきた。

 僕は生まれてこの方、喧嘩をしたことがないのでされるがままだ。


 その日は、5時限目のチャイムが鳴ると同時に終わり解放されたが、翌日からは物理的にだけではなく精神的攻撃もしてきた。


 僕のロッカーに見に覚えたのない大量のエロ本が入っていて「性犯罪者」と罵られたり。


 事務的な用事で他のクラスメートに話しかけようとしたら「ごめん。君とは喋るなって言われてるんだ」と蚊がなくほどの小声で言われたことでクラス全体に見方がいないことを悟ったり。


 他にも教科書を破られたり上履きの中に土が詰めてあったりと色んなことがあったが、僕はそれほど重く考えていなかった。


 だって、卒業さえすれば僕の勝ちだから。


 今は学校という狭い世界にいるから、被害を多く受けるが舞台が変われば自然とイジメは終わる。


 そう考えて、怪我をしようが、制服が汚れようが授業を受け続けた。


 しかし、僕は人間の悪意を甘く見ていたのだ。


 あれは、夏休みに入る直前だった。

 目を血走らせた1軍グループが、僕を屋上に連行した。


「なんなんだよ!!! お前は!!!???」


 そう大声で問うたのは、声デカ男子ではなく、学年1の美人と評されている女子だった。


「もっと! 引きこもりになったりとかしてよ!!! 私達が馬鹿みたいじゃない!!!」


 ここでもまた、馬鹿という言葉が出てきた。

 この人達は、馬鹿にされるのに異常な恐怖を感じている。そして、どういうわけか僕が馬鹿にしていると思い込んでいる。


 どうしたものか……。

 考えていると、学生1の美人さんは顔を真っ赤にして僕にぶつかる。


「その! 調子に乗った顔を! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉォォぉォォォォォォ!!!!!」


 次の瞬間には、僕の身体は宙に浮いていた。


 あぁ。

 屋上から落ちたんだな。

 そう認識して頭上の彼らと目が合う。

 その表情は、恐怖に染まっていた。


 いやいや。

 怖がるのはこっちの方だろうに。

 さすがに呆れながら、僕は短い人生を終えた。



\

 これが、僕が死んだ経緯だ。


 もちらん、彼らを恨んださ。

 でも、天界から生きる彼らを見ていると化けて出る気にもならない。


 だって彼ら、僕が呪うまでもなくボロボロだから。

 直接、手を下した美人さんは今やクスリのやりすぎでかつての美貌を失った結果、死ぬよりも辛い生き地獄を味わっている。


 他の人達も、程度の差こそあれ不幸になっている。


 あぁ。そうそう。

 不幸の種類は違う彼らだけど、面白いことに精神が壊れるワードは全員が共通しているんだ。


 それはもちろん。

 調子に乗ってる。だ。


「ああァァァァぁァァァァァァ!!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」


 今日も、誰かが軽はずみに言ったこの言葉により元美人さんは血が出るまで頭を掻きむしりながら謝罪をする。


 こちらこそ、ごめんなさい。


 謝られたところで、その呪いは僕がかけたものじゃないから、どうすることもできないんだ。

 



-了-

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