整理整頓

「ここがヒナゲシと僕の部屋だよ!」

そう言って案内されたのは、綺麗で整頓された部屋…


否、幻想である。目の前に広がるのは、ありとあらゆる山。書類、本、その他色々…(ゴミの山が無いだけマシだろう)。唯一確認できるのは部屋の右側を占領している二段ベッドと、3つの扉だ。

そこだけが禍々しい負のオーラを放っているようだ…僕はただただ呆然とした。頭がくらくらしてくる。実はこう見えて、ヒナゲシは綺麗好きである。…割と過度の。

「ごめんね…これでも片付けた方なんだけど…ちょっと汚いかな?」

『いやちょっとどころじゃないでしょうが!!!』

申し訳なさそうに言うペトラさん。いや、この人の感覚はどうなってるんだ。考えれば考えるほど理解ができない。

精一杯の「信じられない」という目つきでペトラさんを見る。

『というかこれどうやって生活してるんです??歩く場所無いように見えますけど…』

すると、何故かドヤ顔で

「無いなら作ればいいんだよ…」

そう言い急に隣にあった山を崩しだした。

『あーーーー!!!!!』

思わず発狂するヒナゲシ。

もうこれは理解できないという範疇を超えている。もはや理解したくない。

あまりにも現実とは思えず、自分の目を疑う光景にふっと意識が飛んでいきそうになる…が、ここで倒れたら何も変わらないとなんとか思い留まった。

当のペトラさんはというと、何がいけないのと言わんばかりの表情。僕の葛藤も知らずに…謎に腹が立ってくる。が、少し影が差し、不安げな顔になった。…流石に今までの僕の反応を見て、少しは自分の常識がおかしいことに気が付いてくれたのだろう。よかっ——

「どうしたの?何か思い出した?」

『…』


その瞬間、僕は固く決意した。

(絶対にこの地獄を甦らせてやる…!!!)



まずは書類の整理からだ。大きいの小さいのを含め、山が三つもある…まずはさっきペトラさんが崩してしまった山から始める。

『これは?』

「過去の学級新聞…」

『…いるんですか?』

「でも…取っておきたいし…」

『…じゃあえっと、あそこの机の上…も汚いので…

 うーん、じゃあペトラさんが学級新聞を持っといてください』

「ありがとうございます…」

『じゃあ次…これは?』

「あ!!無くしてた英語のプリント!明後日提出期限のやつだ!!」

『…』

思わず閉口。というか、この調子だとどれも必要だとペトラさんは判断しそうだし、次からは少しぐらいは僕の意見も言うべきだろう。

『これはいいですけど、少しは断捨離してくださいね…じゃあ、これもペトラさん持っててください。』

「えっ?学級新聞と混ざっちゃうけど…」

『あとでいるものの中で分ければいいんですよ…まずはいらないものといるものの仕分けからです。』

「なるほど…尊敬します先輩!!」

『ふははははもっと崇めるがいい!!この調子でいくぞー!!』

ヒナゲシ、単純。

最初はこんなゆっくりペースだったが、テンポに乗ってくると速い。最終的には僕が無言で渡してペトラさんが無言で素早く分けるという作業になった。

案外速く書類を分け終わったので、いらない書類をゴミ袋に入れて いるものの仕分けに入る。僕は正直介入する必要がないので、先に本やワークをいらなそうなものいりそうなもので分けておく。後でペトラさんがまた見ればいい話だ。


そんな要領で本と物の山も仕分け終え、いらないものは全てゴミ袋に入れる。そのままの勢いで机の上やベッドの周辺も片付けて、書類はファイル、本は本棚…とあるべき場所にしまい…やっと、全てが綺麗になった。


「『終わったーー!!!』」

思わず二人でハイタッチをする。

「うおおおおおおお!!!綺麗だ!!!!」

勢いのあまり床で転げまわるペトラさんと、

『ぬおおおおおおお!!!!』

ベッドにダイブするヒナゲシ。

改めて部屋を見まわし、自分達の成果に満足する。

ベッドはふかふか、床までピカピカで、扉も…

扉?

『あれ、ペトラさーん』

「?何~?」

まだ床で転がっている。鉛筆みたいな変なポージングだ。

『あそこの3つの扉って何なんですか?』

「ああ、あそこね!」

よっとペトラさんが立ち上がり、扉に向かう。僕もベッドから起き上がり、それに着いていった。

まず、一番左の扉を開ける。

「ここはお風呂場とトイレにつながる道で、」

ドアの向こうには道が続いていて、それぞれ左右にトイレと風呂場と思わしき扉が付いている。

「お風呂場には洗面所、鏡、洗濯機があるよ!」

『そうなんですねぇ~』

この流れで行くと、残りの扉は何になるのだろうか。キッチンとか…?

そう思い、ペトラさんに次を促した。

「あ、そっちの扉ね~そっちは勉強部屋!どっちも机とか本棚があるよ~」

なるほど、仕切られているのは便利だ…


…よく考えれば、気づくべきだった。そう、この時の僕は完全に油断していた。

だから、決して、わくわくしながら勉強部屋の扉を開けた瞬間に書類の山が覆いかぶさってくるのも予測できなかったし、ましてや隣の部屋も似たような惨事になっていることなんて考えもしなかった。


『…』

「…」

『ペトラさん…』

「…」


結果的に二人が床についたのはその数時間後になり、後日隈のできた顔から察されたオリさんに事情を問いただされ、ちゃんとみっちり叱られた。



今日のヒナゲシまとめ:まとも ★★☆

           油断 ★★★

           綺麗好き ★★★★★

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【短編】異端者共の両奇譚 表日常ver. レモンサワー @Lemon-_-

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