炭酸飲料を買いに行く物語

ドライアイスクリーム

第1話

ある炭酸飲料が飲みたい。


少女がそう思い立ったのはとある日の夕方だった。


雨上がりの空から降り注ぐ日光に照らされる中、少女はふらふらと歩いている。


ほとんど手入れのされていない長い髪に両目がかぶさった少女だ。小柄な体つきをしており、どこか不穏な雰囲気を出している。


少女の目的は"ペッパーズ"という雪のように真っ白な炭酸飲料。


様々なスパイスが使われており、飲む人を極端に選ぶ代物だ。


だが、裏を返せば熱狂的なファンもいるということになる。


そして、少女もまた日頃からペッパーズを愛飲しているのだ。


ペッパーズを扱う自動販売機やコンビニは限定されている。


なので、少女はひとまず行きつけのコンビニに立ち寄ってみた。


しかし、今日は不幸にも品切れだった。


全く知らないが、近辺では自分と同じ嗜好を持つ人物が多くいるのだろうか。


少女はそう考えコンビニを後にする。次のコンビニであれば売っているだろう。


意気揚々と入店した。


売っていなかった。


売り切れていたわけではない。店員に尋ねたところ、ペッパーズは売れ行きが悪いため、別の商品の販売を開始したらしい。


まさか2軒連続で購入できないとは。


少女は、新商品の購入をすすめてきた店員を無視し、その場から立ち去った。


次に向かったのは自動販売機。ごく一部だがペッパーズが売られている自動販売機も存在する。記憶している情報を元に、手あたり次第自動販売機に向かってみた。


ここまですれば一本手に入るはずだった。


そのはずだったのだが。


どこにも売られていない。


売り切れの表示がある自動販売機や、ペッパーズの代わりに別の炭酸飲料が売られている自動販売機ばかりだ。


少女は苛立ちで、近くのガードレールを蹴りつけた。


この途中、インターネットでペッパーズを取り寄せることも考えた。


だが、今は一本あれば十分なのだ。


インターネットで購入すると、段ボール箱に大量に入ったペッパーズが送られてくる。


今は、それほどの量を必要としていない。


突如として、スマホの通知音が鳴った。


ポケットからスマホを取り出し確認すると、そこには友人からのメッセージが表示されていた。


どうやら現在、自宅近くの飲食店に立ち寄り早めの夕食をとっているようだ。それを読んでいると、途中でとんかつ定食の画像が送られてきた。


料理の受け皿には、"かつた"というとんかつチェーン店のロゴが印字されている。


そんな情報を一通り見た後、少女はスマホを地面に叩きつけたい衝動に駆られた。


今の自分にとっては無関係に感じる情報だ。


友人が食事をしていることなど、今の自分には無関係な話である。


ストレスで頭に血がのぼる。このまま友人に電話をかけ、大声で罵倒してやろうかとも考えた。


しかし、それをすれば友人関係が崩壊するのは火を見るよりも明らか。


怒りの矛先がわからなくなり、荒く短い声を大声をあげ自身の頭をかきむしる。


ところが。


このとき、あることに気が付いた。


スマホの画面を顔に近づけ、友人から送られてきた画像をもう一度見る。


料理の受け皿にある、かつたというロゴ。


そして、メッセージを読み返してみると"自宅近くの飲食店"と書かれている。


かつたはとんかつチェーン店なのだが、少女と友人が暮らす町には一軒しかない。


そして、その店の出入り口には一台の自販機がある上に、ペッパーズが販売されていたことを思い出した。なぜ、この自動販売機の存在を忘れていたのだろうか。


藁にも縋る思いでかつたの出入り口付近に向かい、自動販売機を確認する。


安堵の息をつく。


そこには、ペッパーズが売られていた。


早速スマホを使い、ペッパーズを購入する少女。この自動販売機はスマホ決済に対応しているのだ。


そして、冷えたペッパーズを片手に胸を躍らせる。


もし、友人のメッセージと画像がなければ、今日は確実に手に入らなかっただろう。


少女はスマホを操作し、友人にメッセージを送信した。


お礼のメッセージだ。


友人にとっては一体なんのことだか分からないだろうが、質問されれば答えればいいし、何も聞かれなければ言わなくても構わないはずだ。


少なくとも不快感を覚えることはないだろう。


返信を待たずスマホ画面を閉じポケットにしまうと、少女はペッパーズを持ったまま帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

炭酸飲料を買いに行く物語 ドライアイスクリーム @walcandy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る