『曽根崎心中 anone - あのね -』

志乃原七海

第1話 ### 『曽根崎心中 anone - あのね -』総合あらすじ・


## 『曽根崎心中 anone - あのね -』総合あらすじ・


### 1. 物語コンセプト

古典浄瑠璃『曽根崎心中』を、現代の京都・祇園を舞台に大胆に翻案。単なる悲恋物語ではなく、**愛、憎悪、野心が渦巻く、壮絶な心理サスペンスであり、一人の少女が怪物へと変貌するピカレスク・ロマン(悪漢小説)**。社会の理不尽さに踏みにじられた少女が、自らを商品化し、その価値を武器に、自分を育て、縛り付けた世界そのものを乗っ取ろうとする物語。


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### 2. 主要登場人物


* **佐藤 菜々美(芸名:佐知子):**

主人公。15歳で機能不全家庭から祇園の置屋『桔梗屋』に売られる。中卒という学歴に強いコンプレックスを抱える一方、女将に隠れて独学を続け、極めて高い知性と洞察力を持つ。芸妓としての完璧な仮面の下に、この世界への底知れない野心と復讐心を隠している。


* **斎藤 佑樹:**

地方出身の野心的な京大大学院生。学問の世界でのし上がるため、指導教官の娘・美咲と婚約し、権力者に媚びる処世術を身につけている。しかし、その内面には既存の権威への反発心を秘めており、佐知子に自分と同じ「アナーキストの魂」を見出し、抗いがたく惹かれていく。


* **美咲:**

佑樹の婚約者。京都の旧家出身で、社会のルールと秩序を体現する存在。プライドが高く、観察眼が鋭い。佑樹の野心に惹かれていたが、彼がルールを逸脱したと知るや、その愛情は冷徹な復讐心へと変わる。法律と人脈を武器に、二人を社会的に抹殺しようとする「断罪者」。


* **桔梗屋の女将:**

佐知子を育てた置屋の女将。花街の古い価値観(義理と人情、金銭第一主義)で生きる現実主義者。佐知子を「商品」として厳しく躾けるが、その才能が自分の想像を遥かに超える「怪物」であったことに気づき、恐怖と共にお株を奪われていく。


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### 3. あらすじ(全編)


**第一部:出会いと共犯関係**

京大大学院生・斎藤佑樹は、指導教官に連れられて初めて祇園のお茶屋を訪れる。そこで出会った芸妓・佐知子の、他の芸妓とは一線を画す知性と、舞に込められた魂に心を奪われる。教授の計らいで、佐知子と二人きりで一夜を過ごすことになるが、婚約者・美咲への罪悪感から、佑樹は彼女に手を出すことができない。

しかし、佐知子は「何もしなかった」という事実よりも「何かあった」という嘘の方が、この世界では賢い選択だと彼を諭し、二人は「何事かがあった」と嘘をつく**「共犯者」**となる。この禁断の一夜をきっかけに、互いの仮面の下にある孤独な魂に惹かれ合った二人は、人目を忍んで逢瀬を重ね始める。


**第二部:断罪の序曲と下剋上**

二人の関係は、佑樹の婚約者・美咲の知るところとなる。プライドを傷つけられた美咲は、その冷徹な計算高さで、佑樹を社会的に抹殺するための行動を開始。教授への讒言による研究者生命の妨害、友人関係の破壊など、佑樹は徐々に社会的に孤立していく。

一方、美咲は弁護士を伴い置屋『桔梗屋』に乗り込み、佐知子に**「手切れ金500万円」**を叩きつける。しかし、佐知子はその取引を、「芸妓のプライド」を盾に拒絶。この一件で、佐知子は佑樹という男が持つ「資産価値」を確信。置屋に戻ると、狼狽する女将に対し**「私がこの店を買ってあげる」**と宣言。愛憎劇の裏で、彼女は女将から実権を奪い、置屋を掌握するという**下剋上**を成し遂げる。


**第三部:破滅への螺旋**

佐知子の庇護のもと、佑樹は一時的な安息を得るが、実質的に彼女に「飼われる」形となり、プライドは深く傷つく。彼は、佐知子を自由にするための金策に走るが、美咲の根回しによって完全に孤立し、多額の借金を背負うだけだった。

アパートには督促状と嫌がらせの手紙が山のように届き、二人は精神的に追い詰められていく。佑樹が廃人同然となっていくのを見た佐知子は、**「元金ぐらいは返すのが、この街の流儀」**と、水商売から風俗、そしてAV出演へと、自らの身体を切り売りして金を稼ぎ始める。


**第四部:愛の残骸と復讐の完成**

借金は完済されるが、その代償として二人の心は完全に壊れる。菜々美の行為を「愛への裏切り」と断じた佑樹は、彼女の頬を打つ。それに対し、菜々美は**「行く場所なんて、どこにもない。分かるやろ、あんたには!」**と、全ての責任を佑樹に押し付け、彼のもとを去る。

数日後、テレビのニュースが、綺麗な着物を着た若い女性が、赤信号を無視して交差点に飛び込み、車にはねられ死亡したことを報じる。それは、菜々美が自らの命を使い、佑樹と、そして彼女を追い詰めた理不尽な社会に対して行った、**最も雄弁で、最も残酷な最後の復讐**だった。佑樹は、彼女の死の「真の加害者」として、永遠に消えない罪悪感という地獄を生き続けることになる。


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### 4. 物語のテーマと分析

* **愛の変質:** 純粋な魂の共鳴から始まった愛が、社会的な圧力と個人の野心によって、支配、依存、憎悪、そして最終的には復讐へと変質していく過程を克明に描く。

* **力の反転(下剋上):** 社会的弱者であったはずの菜々美が、自らを商品化し、その価値を武器に、強者(女将、佑樹、美咲)を次々と打ち負かし、支配していく様は、現代社会における力のダイナミズムの寓話でもある。

* **呪いとしての愛:** 最終的に、菜々美の愛は佑樹を救うのではなく、彼の魂を永遠に縛り付ける「呪い」となる。これは、「死」によって愛を成就させた原作『曽根崎心中』とは対極にある、現代的でより虚無的な結末である。

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