きになるあいつ

五布団 睡

俺の隣に座る奴

俺の通う「東雲共同学園」は、全国初の“人間と異種族が一緒に学ぶ学校”だ。

 吸血鬼、妖狐、河童、そしてなぜかロボまで……もう何でもアリである。

 そして、俺の席の隣に転校してきたのは――額にお札を貼った少女、キョンシーだった。


「は、はじめまして……」


 ぎこちなく跳ねて自己紹介する彼女に、クラスがどよめく。


「うおっ、本物のキョンシーだ!」

「死人なのにかわいい!」

 男子も女子も盛り上がる中、俺だけは固まっていた。

だって、目が合った瞬間、キョンシーの頬がほんのり赤くなったのがわかったから。

死人なのに、俺の気のせいか?


俺は隣のヤツを観察することにした。

 授業中、ノートを取る彼女は動きが遅い、ついつい口を出したくなる。

授業後俺は、隣のヤツに話しかける。

「後でノート書いとくからノート貸せ」


「ありがと……」


 冷たい指が触れてくるたびに心臓が跳ねる。


 昼休み。吸血鬼はトマトジュースを飲み、河童はきゅうりをかじる。その横であいつは餃子を食べようとして落としていた、結局見ている俺がムカつき「あーん」をしてやることに。

「ほら、」

「……あ、ありがとう」


 お札の下で小さく微笑む顔に、周りのクラスメイトたちは「リア充爆発しろー!」と大合唱だ。

うるせぇーこいつとは付き合ってない。

 帰り道。風であいつのお札が剥がれかけた。


「やばっ!」


 慌てて押さえる俺の手に、ヤツの冷たい指が重なる。

「……また助けて、くれた」

「当たり前だろ。同じクラスメイトなんだから」

「……そ、それだけ?」

 その問いに、言葉が詰まる。


「あぁ、そうだよ」なんて言いたがヤツの顔がが頭から離れない。


―――気になるあいつ


 吸血鬼も妖狐もロボもいる。にぎやかでドタバタな共同学校の中で、俺がどうしても気になってしまうのは――隣の席でぴょんぴょん跳ねる隣のヤツ。


放課後。

 夕焼けの廊下を、ヤツはぴょんぴょんと跳ねながら帰っていく。

 俺はつい、その背中を目で追ってしまう。


「なあ」

 呼び止めると、ヤツの動きが止まる。

振り向くと、お札の下からのぞく瞳が、まっすぐ俺を射抜いた。


「お前さ……気になるんだよ」


 言ってから、自分でも何を口走ったのかと赤面した。

 だがあいつはしばらくじっと俺を見つめ、やがて小さく――ぴょん、と近づいてきた。

 俺の手をぎこちなく掴み、冷たいけれど確かな温度が伝わってくる。

 お札がひらりと揺れ、ヤツは声を絞り出した。


「……わ、わたしも」


 その瞬間、胸の奥で何かが跳ねた。

 気になるあいつは、やっぱり気になる“特別な存在”だった。

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きになるあいつ 五布団 睡 @fubosann21

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