【外伝】聖剣士リヴァイア チームエアリー物語

橙ともん

外伝

第108話 聖剣士失格


 これは、われが語りたくなかった物語――

 語ってしまうと、お前と本当の別れになるからだぞ。


「フラヤよ」


 自動操縦中の飛空艇ひくうていノーチラスセブンのデッキに一人立っているのは、聖剣士せいけんしリヴァイア・レ・クリスタリアである。

 流れる雲を見上げて、再び盟友の名を呼んだ。


「ああ、そうだな……」

 後ろからゆっくりと、歩いてくるのは上級騎士じょうきゅうきしフラヤ・マイラ・フレデリールである。

 彼女は、リヴァイアが想像する……知っている、見てきた1000年前の姿をしている。


 上級騎士フラヤは歳を取り、老いていき、亡くなった。

 その亡骸は、リヴァイアの手で最果ての誓いの村の丘の、墓石の下に葬られた。


「……それでいいじゃないか。いつまでも、あたしは天国であんたを待ってる」

 フラヤが、リヴァイアの隣に立つ。

「それで……。いいのだろうな」

 リヴァイアが雲を見つめながらそう言うと、盟友フラヤの横顔を見つめた。

 すると、フラヤはゆっくりと顔を横へ向ける。

 彼女は「そうだ……ぞ」と、盟友リヴァイアの口真似くちまねを言ってから、口角こうかくを緩めて微笑ほほえんでくれた。


 これは、飛空艇仲間のレイスたちにも語っていない物語――


 ――我が、死骨竜しこつりゅうとバトルするところを見せれば、1000年前のチームエアリーの最強クラスの魔法使いイルレとのバトルを、想像し易くなるだろうと思った。

 それで、1000年前のチームエアリーの真実を、語たらなくてもいいだろうと考えた。


「あははっ! どこまでも仲間思いだな。リヴァイアは!」

「フラヤ、言うな……」


「お前は、秘剣ひけんの剣士スタイナー・ラ・ベアトリクスに、背中から心臓を一突きに突き刺されて絶命したが……」

 顔をまっすぐと元に戻した聖剣士リヴァイアが、また流れる雲を見つめる。

「我は、お前の絶命を嫌った」

「元サロニアム第4騎士団長として、聖剣士失格だな」

 隣で雲を見つめる上級騎士フラヤ、盟友リヴァイアに厳しい言葉を言ったのだけれど、頬は緩んだままだった。


 聖剣士失格――


 それを、想像上の盟友フラヤの口から言わせたのは、

「コーネリアルの魔導士たちの禁断魔法で、お前を蘇生させたことは、やはり間違っていたのかもしれない」

 元サロニアムの騎士――軍人として、禁忌を犯してしまった自分に、その対象である蘇生させたフラヤに叱ってもらいたかった。

「もう言うなって、リヴァイアよ」

「フラヤ……」


「その禁忌の結果、1000後まで負い目を背負い、今も悩み続ける運命になってしまった聖剣士……って、あははっ!」

 こらえきれず、腹を抱えて笑い出す上級騎士フラヤ――。

 隣に立つ盟友の高笑いに、聖剣士リヴァイアは冷めた表情で彼女を横目で見てから、「我は、バカ聖剣士だぞ……」と呟く。

 視線を腰に提げている聖剣エクスカリバーに向けて、「あのときは、我はパニックになってしまい……自分の衝動には逆らえなかった」と己を嘆き、寂しく聖剣の柄を摩った。


「所詮、あたしらの人生なんて思い通りにはいかないものだからな。同じことをあんたに言うと思うが……、あのまま、あたしを死なせてくれればよかったんだ」

「盟友の絶命を目の当たりにした、我の苦痛をわかってくれないか……」

「あたしら以外にも、サロニアムの騎士の中にはお互いを盟友と思って、共にバトルをしている者は大勢いると思うけれどな……」

 と、盟友フラヤに言わせる聖剣士リヴァイアだった。

「盟友……」

 盟友だから蘇生させたのは、道理が通らないのである。

「……」

 返す言葉が見つからない。


 渋い表情になってしまった盟友リヴァイア、その彼女をしばらく見つめたフラヤは、返す刀で――、

「……まあ。あたしも駆け寄ってきたあんたの目を見つめて『……リヴァイア、すまん』と言ってしまったのも原因だったか?」

 と、自分にも非があったことを認めて、聖剣士をフォローするのだった。


「……レイスたちに、お前の最期の言葉を我の口から語ってしまうと、それは、上級騎士であるフラヤ・マイラ・フレデリールにとっての不名誉だぞ」

「真実だったけどな。……あははっ!」

「フラヤ、笑えるか? 我は……笑えんぞ」

 この上級騎士は、どうしてこうも自分の死を笑い話で語れるのか?

 彼女の陽気な性格を知るリヴァイアだからこそ、想像上のフラヤを笑わせるのだった。


「なあ、リヴァイア。……あたしは、スタイナーに一度殺されてしまい。それから、蘇生されて……。だから、わかったことがあるんだ」

「わかったこと? なんだ」

禁断魔法きんだんまほうという禁忌きんきを犯した、あんたの気持ちだよ……」

「言うな!」

 激高する聖剣士リヴァイア――。

「……いなだ。言わせてくれないか!」

 盟友の怒りを気にすることなく、上級騎士フラヤの口から次に出た言葉は――、


 聖剣士なんてなりたくなかった

 もう、十分に仲間たちの死を見てきた


 自分は、この異世界からお別れして、早く死にたいんだ

 盟友フラヤの戦死を、自分はこの異世界のラスボスを倒すまで


 ずっと覚えていくことが、辛いんだ


不死不弱ふしふじゃくの聖剣士リヴァイア・レ・クリスタリアにとって、あたしの死は、最も見たくなかったのだろうな……」

 己の本音を、想像上のフラヤに言わせるリヴァイアだった。

「我は、やはり聖剣士失格だぞ……」

「だからって、自分を責めるなよ」

「……」


 無言になってしまった聖剣士リヴァイア。

 心苦しむ盟友――誰もが憧れ尊敬する聖剣士の称号をえた仲間、彼女の姿に視線を向けることをしない上級騎士フラヤ。


 二人は揃い、流れていく雲を見ていた。



 これは、われが語りたくなかった物語――


 ――我らサロニアム側、聖剣士リヴァイアとサロニアム第7騎士団長の上級騎士フラヤ、我の部下であるサロニアム騎士団シルヴィ・ア・ライヴは、次第に敵国の姫エアリーを暗殺する気概が無くなってきたんだ。


 未達みたつ城塞都市じょうさいとしグルガガムの姫――エアリー・ティナ・クリスタリアは、本気でサロニアムとグルガガムとの緊張状態をほぐそうと努力していた。

 その姫を、死ぬ気で保護する最強クラスの魔法使いイルレ・アム・キールル。


 サロニアム側とグルガガム側が手を取り合ったのが、チームエアリー。

 お互いが立場を語って、軍人として背負う気持ちを教えてくれた。


 その先に待ち構えていたのが、我の盟友の戦死と蘇生――





 続く


 この物語は、フィクションです。


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