第4話 基本
体験が終わって、二人とも縄を解かれて、部屋の端に置かれたテーブルに集まっていた。床座りして、冷たいお茶をいただきながら話始めた。
「ねぇ、トモ、どうだった?」
「う、うん、気持ちよかったよ、モコは?」
「わ、私もよかった。わ、私ね、こんなふうに縛れるようになりたいって思ったよ」
「僕も、縛れるようになりたい。(モコを)あんなふうに縛りたい・・・そう思ったよ」その対象については、言えなくて心の中で思うしか無かった。
「じゃ、じゃあ、一緒にこれから覚えていこうよ」
「うん、頑張ろうね」
「二人、どっちが先にできるか、競争だね」
「うん、負けないからね」
「私こそ、負けないから」
二人で話しているのを見守っていた
「じゃあ、二人とも今度の講習会に参加でいいわよね?予約入れておくね。練習の相手はお互いのペア参加と言うことで受け付けておくわね。普通に参加してもらう場合は、練習相手は、その都度、先生が決めるけど、二人の場合は基本的に二人で固定するからね。どちらかが休んだら、他の人にお願いする事になるけど。他に専任のモデルさん、主に彼氏とか彼女を連れてくる人もいて、その場合もペアは固定になるわ」と話をしてくれた。
モコを縛るのも、モコが縛るのも、どちらも相手が自分だという事に、僕は『ほっ』としていた。
話をしていると、他のお客さんもやって来たようだ。まずは、城先生に縄を教わった先輩だという30代半ばのイケメンの男性で竜さん、しばらくして、もう一人、主婦だという30代前半の女性舞さんがやってきて、みんなで輪になって話をした。
竜さんは、縄の講習会で
舞さんは、子供のお迎えまでの短時間、息抜きに来ているという事だった。
二人が縄を覚えたいと言う話をすると、竜さんが、モコを誘った。
「縄を覚えるならいろんな人の縄を受けるのも経験になるよ、よかったら私の縄も受けてみませんか?」
僕はモコがなんというか、嫉妬して、でも見ているしかなくて、僕は彼女の何者でもないのが、悲しかった。
「竜さん、モコちゃんは、さっき私が縛ってあげたのよ、今日は私の縄で充分だと思うわよ?それとも私の縄じゃ足りないと思う?」
「
僕はきっと顔を真っ赤にしてたと思う。
「トモ、どうしたの?」
「僕、頑張って、早くモコをちゃんと縛れるようになるよ」とそう本人に誓う。
「う、うん、楽しみにしてる」モコがなんだか恥ずかしそうにそう言ってくれた。
「ねぇ、先生。二人に本結びだけ、今日のうちに教えてあげていい?」と
「そうだねぇ、本来は初日に覚えてもらうことだけど、その二人ならいいかな、真面目そうだし。ここで見ているから教えてあげて」笑いながら先生がそう言っている。
「じゃ、基本中の基本、本結びを教えるわね・・・」
そうして、僕達は本結びを習った。
本結びとは要するに最初に手首を縛ってもらった時の縛り方で、緊縛の基本になるものらしい。理屈としては均等に2周回して、その輪が崩れないように素早く結んで、しかも引っ張ってもその作った輪っかが締まっていかないようにする結び方なんだそうだ。
試しに
次にきちんと4本が揃った本結びの縄で引っ張られると、全体が一体となって太い輪っかで引っ張られるように感じて、負担が少ないのがわかった。
家で練習できるように、人を縛る為に販売してる麻縄を売ってもらった。
先生がつくっている縄らしい。モコと二人で一本ずつ、売ってもらった。
「それ、先生か
僕とモコはありがとうございますと何度もお礼を言った。
「練習会までに覚えていらっしゃい。ちゃんと出来てたら、続きを教えてくれるけど、普通初日はそれだけで終わっちゃうのよ」
「あのきちんとしたのを何度も見て確認したいので、ちゃんとしたのを動画に撮らせてもらって良いですか?」とお願いしてみた。
「どうする?先生構わない?」と
「
そして先生のお手本を僕とモコはスマホで動画に撮らせてもらった。
あとで竜さんが「アレわざとゆっくりしてくれてたぞ。難しいんだよ、ゆっくりするの、感謝して、練習頑張れよ」って言って教えてくれた。
先生の本結びは、そう、とても綺麗だった。4本の縄目が綺麗に揃って、美しいって思った。こんな単純な事なのに、感動して僕が「綺麗です」と言ったら、先生はこう答えてくれた。
「15年、何度も何度も繰り返してきただけですよ」と・・・すごく重い言葉だと思ったし、素敵だなと思った。
僕達が帰った後の店内
「
「素敵じゃない?幼馴染同士で縛り合う恋人同士になってくれたら。それにあの二人、私の写真見てすごい真剣に憧れて見てくれてたのよね。あのまま、純粋なままの二人でいてくれたらいいなぁ・・・って思っちゃったのよ。薄汚れた大人のお姉さんとしてはさ。だから、変なちょっかい出して食べちゃったらダメよ」
「ハイハイ、汚い大人のお兄さんも自重しますよ。あの二人、距離感が中学生の初恋みたいでしたよね。二人とも可愛かったなぁ。今の自分には眩し過ぎますね。今度見かけたら、変な虫がつかないように気をつけて見ておきますよ」
「ありがとうね、モコちゃん可愛いからおじさん達からモテそうだし、トモくんもね、S女さんからモテそうよね、私も本音で言うと、一人だけで出会ってたら、美味しそう、悪い事いっぱい教えてあげちゃいたいって思ってただろうし。もし縛りをちゃんと覚えたらあの若さで、童貞くさいままにきちんとした縄できるって、とんでもない優良物件になるわね、独身のM女さん達、目の色変えるわよ。まぁ、そんな事になる前に、どう見ても二人とも好きあってるんだから、さっさとくっつくといいけど」
「原石二人ですね。若いっていいなぁ」と竜が言った。
「何言ってるの、竜くんも、この界隈じゃ充分若い方よ」と
「育ってくれると良いね。若い子が増えるのは嬉しいよ。本人達の努力次第だけどね。私に出来るのは、ちょっとしたお手伝いだけだから」と先生が言って、その場はお開きの時間になった。
僕達はそんな風に見守られていたなんて、その時は知る由もなかったのだ。
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