〜ギャル姫編〜 第9話 可愛いけどカッコいい

 俺、姫海空は灰野さんに屋上への扉の前に呼び出されていた。

 何やら俺と灰野さんが付き合っているという噂が流れているらしくその事について話がしたいようだ。


「本当にごめんね空!あんな噂流れたら仕事に影響出たりするよね・・・」


「それは大丈夫・・・別に証拠のない噂くらいなら、SNSで拡散されてもたいした問題にはならないから」


「そっか、それなら良かった」


 俺と灰野さんは二人で遊びに行ったりはしていないから、写真を撮られることはない。それなら落ち着いて対応すれば沈静化できるだろう。

 そんなことより心配なのは恵梨香の事。今週末は初デートなのに、変な誤解されたりしたら絶対嫌だ!


「でもさ、空って本当は彼女いたりしないの?もしいたらさ…こういう噂は…やっぱりまずいんじゃない?」


 ドキリと心臓が跳ねる。恵梨香との関係をバラす訳にはいかないからここは誤魔化す。


「ううん、いないよ…今は作るつもりないから」


「そうなんだ・・・」


 話が一区切りついたところで俺は早めに戻ることにした。こんな人気のない場所で二人でいるとこを見られれば火に油を注ぐ事になりそうだと思ったからだ。


「そろそろ戻ってもいいかな?あんまり長く二人でいるとさ…もっと誤解されそうだし…」


「そうだね、戻ろっか」

「空は・・・嫌だった?アタシと噂になって・・・」


 初めは意図がよく分からなかった。

 噂自体は嫌ではない。俺が嫌なのはこの噂で恵梨香との関係にヒビが入ること。

 でももしかして、そういう思いが強すぎて灰野さん自身を拒絶しているような態度をしてしまったのかもしれないと思い、弁解する。


「え?嫌じゃないよ…灰野さんは?」


「アタシも嫌じゃないよ・・・むしろ嬉しいかな?」


 そう言ってニコッと笑った灰野さんが小走りで階段を降りていく。俺も後に続いて階段を降りていき、廊下に出た所で


「じゃあまたねー空!」


 先に行った灰野さんは、大きく手を降って自分の教室に戻った。

 

 さてこの後どうするか…出来れば恵梨香とすぐに話したいけど…教室でこの話はできない。

 それなら昨日みたいにまた昼休みに集まるか…いや、このタイミングで連日昼に姿を消したら、灰野さんと密会してるんじゃとかって噂になりかねない。なら夜の通話の時にこの事は話そう。


 そしてその日の夜


「恵梨香、あの噂聞いたよね…」


「エラちゃんとのやつなら聞いたよ」


 通話を始めて早々、俺は一番話したかった話題を振る。


「あれ本当に身に覚えなくて、浮気とかは絶対してないから!」


「わかってる…信じてるから空のこと…」


 その言葉を聞いてひとまずホッとする。恵梨香に誤解されたりはしてないみたいだ。


「そっか…良かった…」


「それよりさ、今日の私どうだった?普通に話せてたと思うんだけど」


 今日の休み時間、恵梨香の方から話しかけてくれた。それも、恵梨香の言うとおり昨日までの緊張は全く感じさせずに。

 話した内容はいつも通話の時に話すような世間話。それだけでも顔を合わせて笑い合うと凄く嬉しかった。

 

「うん!普通に話せてた!凄いね、昨日の今日でこんなに変わるなんて」


「噂のおかげかな・・・」


「えっ?」


 俺はむしろ、その噂が気がかりで自分から話しかけられなかったから驚いた。


「だってエラちゃんと付き合ってると思われてるんだったら、誰も私達が付き合ってるとは思わないでしょ」


「言われてみれば、確かにそうかも」


「それに火ついちゃって…空は私のだから、誰にもあげない…」


 力強い恵梨香の言葉を聞いて、鼓動が速くなる。

 昨日までの初々しい恵梨香は可愛かったけど、今はめちゃくちゃカッコいい。


 俺が彼氏で恵梨香が彼女のはずなのに、可愛さよりカッコよさにドキドキするなんて・・・俺、おかしくなってるかも。

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