第2話:出発

「ルーク、何をぼけっとしてるんだ?次は私とだぞ?」


 エルさんも容赦がない。アレンと比べるとそこまで大差があるわけではないけれど、勢いでは勝っている。

 ……どちらも容赦がないといったが、エルさんのほうが容赦がない。流石に手加減してもらっているとはいえ、エルさんが真剣を持って、一方私は木刀で戦っているような感触。

 しかし、実際はエルさんと私は両方とも木刀だ。

 一撃一撃が非常に重い。木刀でこんな威力が出せるのか?と思うほどだ。

 手加減してくれているのか、私が多少の余裕を持って攻撃を対処できるほどのペースで攻撃が来る。しかし予測が困難。難しく考えるほど無数の可能性が見えて、どうすればいいのかわからなくなる。致命的な部位をよく狙ってくるので、当たれば一発でアウトになってしまう。実践を想定しているのだろう……


「ルーク、さっきから致命傷になる部位ばかり狙われていると思っているだろ?」


「はい、だから防御に専念しています…」


「守っているから、狙われるんだ。戦いに多少のリスクはつきものだ。動かない敵を狙うなら致命傷になる部分を狙うのが合理的だろ?動けばその狙いはズレて命中率は悪くなる。

 防御も大切だが、回避、攻撃を繰り返すと余裕が生まれ、相手も攻撃する懸念が生まれる。」


 そう言われて気づく。アレンのときは距離をおいて、狙っていた。あのときは自ら隙を作り、攻撃しに行った。リスクは少なく、間合いを詰め攻めることができた。

 間合いの管理、それが戦いにおいて重要な要素。エルさんからは届いても私からは届かなければ一方的に攻撃され続けるだけ。

 そして今の状況は負け試合となっている。このまま押し切られてしまう。


「妙案です…!」


 一旦後ろに距離を置く。エルは自分が守りに転じられないように、こちらへ迫ってくる。私も腹部めがけ剣を構えエルへ迫っていく。

 剣を上に構えていることから、上に避けることはないだろうと予測し、左右どちらかに来ることを前提とする。

 剣は左手に持っているので、私からみて左によければ薙ぎ払い、右なら突きを選択する。

 エルも考えているだろう。突きなら攻撃までのモーションが短いので速攻の回避か受け流しが必要。でも薙ぎ払いならモーションが長く、次に繋げられる回避ができる。

 だから、間合いの直前に左に避けて攻撃してくるだろう…


 しかし予想はいつも超えてくる。間合いの直前まで迫ると、突然エルの姿が消え首元に剣が当たったのを感じ取る。いつの間にか背後に回られていたのである。


「左に来ると思っていただろう?でもお前には全方位に警戒が行き届いていない。相手の死角は相手の弱点。覚えておけ」


 午前中はエルから、午後はアレンとエルからの稽古が待ち受けている。時にはスノロム村を探索しに行ったりもした。アレンの探索について行ったときは弱い魔物との戦闘時は、戦わせてくれた。

 村の中でも友だちができた。

 茶髪が目立つエリスというスノロム村に済んでいる4歳の子供で年下だ。よく家で魔法の勉強をしていると話を聞いた。教えてやりたい気持ちもあるが、変に嫌われても困るので遠慮させてもらった。


 剣の稽古をしつつ、村との関係を深める生活を続けて半年がたった。

 そう。エルが王国に帰還する時期がやってきたのだ。季節は秋。スノロム村自体北方に位置する村なので夏は涼しく快適だが、秋にかけてくると肌寒くなってくる。


「エル、半年間世話になったな。お前には王国に娘もいるっていうのにここまで来てもらって……」


「いいてことよ。私懐かれすぎちゃって、パパ嫌いなのさ。でも預けたのは夫だけどな…

これは私に依存している娘のためでもあって私が選択したことさ。アレンが気にすることじゃないさ。」


「エルさんありがとうございました。強くなったら、いずれ王国の学校へ通おうと思います。もし合う機会があればまたお世話になるかもしれません。」


「エルちゃん元気でね。また来てもいいんだよ…?」


「そんなに言われては帰るのもためらうな…でも、魔物の活動が活発になるのも近いから、戻らないといけないのだがな…アレンもこの村を守るんだぞ?」


 そう言って、エルは旅立っていった。しかし、半年もあれば人は変わるものだと感じた。

 まずエルが言うには、私自身の口調が多少気持ち悪がられないほどにはなったそうな。

 エリスにも、”もうちょっと口調どうにかできない?”と言われてショックだったのを思い出してかなり力を入れて矯正した。”今はあまり気にならないかな”とは言われているので大丈夫かな?

 エリスは魔法の勉強に勤しんでいる。前までは一緒に遊んだものだが、今では遊ぶことなんてほとんどなくなった。でも関係は続けていて、勉強中に差し入れを持ってきて

 ”わからなかったら聞いてね?”とか冗談ふっかけながらエリスの勉強の愚痴を聞いたり、私の稽古の愚痴を話し合ったりした。

 しかし生前の出来事もあって、なかなかユーモアのある口調にできない。


「ルークもあと数ヶ月で6歳か……時間が立つのは早いな」


「ほんとよね。昨日まで赤ちゃんだったような気分♪」


「それでだな、6歳になると学校に通えるようになるんだ。俺達としては無理やり登校させるつもりはないが、どうだ?通ってみたいか?」


 ”行きたい”といえば、本当に通わせてくれるような表情だ。

 ただ、懸念点が一つ。この世界は魔法が絶対というほどではないが、広く知れ渡っている。

 だから、学校で学ぶことの殆どは魔法である。実技もあるはずなので卒業は難しい。

 剣術はあくまでたしなみ程度。本気で実践的な使い方を知りたいと言うなら他の剣術専門学校へ通う必要がある。


「行きたくはありますが…知っての通り私は魔法が使えません。学校でどんな処遇になるか…」


「行かないということか……?」


「…そういうことになりますね…」


「ルーク、行きたいと思ったとき、また言いに来てね。思い立ったときが吉日、なんてね。」


「そうだぞ、でもその間俺の手伝いをしてもらうからな。」


 別に行かなくたっていい。そう言ってくれた。



 ◆◆◆2年後◆◆◆



 エリスが6歳になり、魔法学校に通うという話を聞いた。

 私自身としても嬉しかった。

 通う学校は私の母校である、オルヴァ・ヴェレア王国にある、ラフィノス魔法学校。

 スノロム村からオルヴァ・ヴェレア王国は馬と使ったとしても10ヶ月かかる。それにエリスは入学するに当たって入試問題を解かないといけない。もしこれで不合格の場合はまた1年待って、もう一度入試を解くか、10ヶ月使って戻らないといけないことになる。絶対的な覚悟がなければこの決断はなかっただろう。それに6歳という幼い子どもがこの決断をした。言わなくてもわかってほしい


 しかし、こんな長旅に護衛もなしとは言わずこの私が配属された。

 アレンでもいいのでは?と考えていたが、村と契約している以上、村から離れることはできない。


「ルーク、これは稽古ではない。仕事であることに肝に銘じろ。人の命がかかっているんだ……失敗は許されない……それに……ちゃんと帰ってきてくれ…

 それと初任務記念に、真剣を贈る。決して使い道を誤るな!」


 アレンもわかっているのだ。でも愛する息子と別れなければいけない。母カミラの姿はない。カミラ自身とても泣き虫なことを私は知っている。カミラ自身でもそれは理解している。だから今ここで会ったら明日の別れなんて、ルークから絶対に離れることができないって。これは母なりの自制心だろう……



 ―――翌朝


「!!ルークっ!」


 母がいつも起きていない時間に起きていた。静かに抱き合っているが、体は震えている。泣くのを必死に我慢しているってこちらも分かった。


「母さん…」


「うぅっ…うぐ……ルーク……」


 余計に泣かせてしまった。人として別れは辛い。でも我慢しなければならない場面だってある。

 正直、私だってここを離れるのは嫌だ。この村の中でみんなと一緒に幸せな生活をし続けたかった。でもこれは、友達のエリスのためでもある。この村を幸せにする私の役目。


「母さん!必ず帰ってきます!心配なら定期的に手紙を送ればいいじゃないですか!」


「ちゃんと手紙、返事してくれる?」


「当たり前です!私だってここを離れるのがすごくさみしいです」


「わかったわ……聖約の光よ、彼(か)の道を照らしたまえ」


「一体今のは…?」


「おまじない♪もう大丈夫だわ。ルーク、

 行ってらっしゃい」



 家から出るとどこからも人の声がしない。静かな朝だ。これと言ってなにか変なわけではなく、いつもこの時間の朝をしてっている私からすれば特別ではない。

 アレンはまだ寝ている。カミラともさっき別れの挨拶を済ましたばかりで、これ以上変に別れの挨拶をしても心残りになるだけだ。ここは早々に旅立とう。


「エリスおはよう。調子はどう?」


「おはよう。親からすごく心配されて朝からちょっと疲れ気味……それにこんな朝早くから起きたことなんてないからさ、すごく眠いや。っふふ」


 私は今回、護衛役兼御者を担当する。オルヴァ・ヴェレカ王国までは比較的人通りも多く、安全な道を通っていくので、エリスと私のみで王国に向かう。いくつか国も経由しつつ向かうので、安全性は確か。


「エリス?忘れ物はない?」


「かんぺき!」


 そうしてオルヴァ・ヴェレア王国に向かって私達の旅は始まった。

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