悪夢の続き〜ドンデン返し、オチに命をかけています
宮田 あゆみ
旧校舎のシミ
旧校舎の2階と3階の間にある踊り場の壁には、不気味なシミがある。
そのシミはどこか、人の顔のように見えた。
生徒の間では「いじめを苦に亡くなった、ある生徒の怨念が浮き出たものだ」という噂が囁かれていた。
当初はぼんやりとした形だったが、ここ数日でその顔立ちはさらにくっきりと浮かび上がり、不気味さを増していった。
* * *
年が明けてしばらくしてからの事だった。教室でいじめに苦しんでいた晴人(中2)は、そのシミに向かって小さな声で祈るように呟いた。
「あなたと同じように、僕もいじめられて苦しいです。どうか、あなたの力を貸してください…」
いじめのリーダーである山藤は、晴人を笑いものにすることを楽しんでいた。
その日も山藤は、晴人を標的にしていた。教室に女子生徒がいる前で、晴人のズボンとパンツを引き下ろし、晴人を辱めて大笑いしたのだ。
しかし、その瞬間、晴人の表情が変わった。
彼の目には、まるで何かが乗り移ったかのような冷たく鋭い光が宿っていた。
その異様な視線に、山藤も一瞬、動揺したように見えたが、すぐに笑ってその場を立ち去ろうとした。
だが、次の瞬間、晴人が山藤の背後に回り込み、後ろから力強く羽交い締めにした。
山藤は「参った」と手を叩き、周囲に助けを求めるように叫んだが、晴人は決して力を緩めようとはしなかった。
山藤は次第に意識を失い、失禁してしまった。
教室中が静まり返り、皆が「信じられない」といった表情で晴人を見つめていた。
あの弱い晴人が、山藤を打ち負かしたのだ。
山藤はすぐに意識を取り戻したが、これをきっかけに晴人へのいじめはなくなった。
その噂は瞬く間に学校中に広がった。
晴人の1件があってから、他の生徒たちも旧校舎のシミに一層の関心を寄せるようになったのだ。
1年でも同じようないじめがあり、いじめられていた生徒がシミに向かって祈りを捧げたという。
その後、まるで別人のように豹変し、教室中で暴れまわった挙句、いじめは完全におさまったというのだ。
この出来事は、生徒たちの間でさらに話題となり、次第に「いじめられている生徒がシミに祈ると怨念が乗り移り、突然キレ出す」として学校全体に奇妙な噂が広まっていった。
校長室にて
「校長、こんなにうまくいくものなんですね。さすがアイディアマンです!」
校長室で教頭は満足げに笑みを浮かべながら話しかけた。
「年末の期間中、なんとなく顔に見えたシミに丁寧にエイジング加工を施して、さらに人の顔のように見えるように仕上げたことで、信憑性が増しましたね
『いじめを苦にして亡くなった生徒の怨念が壁に浮き出てきた。その怨念に祈りを捧げると、力を貸してくれる』
そんな噂を流しただけで、いじめられている生徒たちをあれほど簡単に洗脳できるとは思いませんでしたよ」
「いじめは、自分で解決するのが一番です。我々が頭ごなしに説教しても、効果は限定的ですからね」
校長は静かに言った。
教頭も深く頷き、満足げに微笑むと、校長は少し声を低くしてこう付け加えた。
「これは私たちだけの秘密ですよ?」
「はい、こちろんです!」
* * *
新人教師の松本莉緒(23歳)は、はらわたが煮えくりかえっていた。
勤務態度について校長から酷く叱責され、その姿を何人かの生徒に見られてしまったのだ。
面目は丸潰れで、羞恥と屈辱で胸がいっぱいだった。
松本莉緒は今回の事を「いじめ」と解釈し、耐えがたい怒りがこみ上げていたのだ。
その足で旧校舎へ向かい、例のシミの前に立った松本は、低く囁いた。
「私は、校長にいじめられて苦しんでいます。どうか、あなたの力をお貸しください…」
その瞬間、松本莉緒の目が鋭く吊り上がり、冷たい光を帯びた。
彼女は別人のように肩を怒らせながら校長室へ向かって歩み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます