2章:べローニャの双塔攻略戦

第10話:第4中隊

「アンジェ二等衛生兵、貴方の配属先が決まりました」

「わ……分かりました!!」


 野戦病院に出勤すると突然マサ軍医から私の配属先が言い渡されました。


「本日付でアンジェ二等衛生兵は第4中隊に配属されます」

「第4中隊……! えっ中隊ですか!?」


 てっきり小隊などの少人数の部隊に配属されるものだと思っていました。


「部隊所属の衛生兵は中隊から上に配属されるんですよ」

「そうなんですね……」

 

「第4中隊には既に先輩の衛生兵が1名着任しています。前線で必要になる技術を学べると思いますよ」

「はい! 分かりました!」


 野戦病院の事務室にある私物は軍の寮へ輸送して貰えるそうです。

 

「この先、より忙しくなる事でしょう、頑張って下さいね」

「はい……! お世話になりました!」


 マサ軍医やお世話になった先輩達に出発の挨拶をし、私は前線に向かいました。




 

 

 塹壕に着くと、黒灰色の髪のガタイの良い男性がこちらに気が付きひらひらと手を振っていました。

 第4中隊の隊員でしょうか。


「アンジェ二等兵衛生兵、只今着任しました!」

「君が新しい衛生兵ちゃんだね」

「はい!」


 自己紹介をすると、男性は八重歯が見えるくらい大きな笑顔で接してくれました。

 

「そうかそうか!俺はガーラン。第4中隊の中隊長で階級は大尉や」

「よろしくお願いします!」


 少し訛った口調で話す男性は、なんと第4中隊の中隊長でした。


「おーい! 新人ちゃん来たでー! 集まってくれや」


 ガーラン大尉の呼びかけに他の隊員も集まって来ました。


「ソルジアよ。階級は上等兵。危ないから私より前に出ないようにね。よろしく」

「はい!よろしくお願いします!」


 ソルジア上等兵。

 灰色の髪を結っている女性の隊員で、スラッとした長身で大人の雰囲気があります。


 ソルジア上等兵の横には私と同年代くらいの隊員もいました。


「アルヴァ一等兵だ」

「……あ゙!!」

「んだよ……」

 

 アルヴァ一等兵。

 紺色髪をした男性隊員に私は以前会った事があります。

 余り良い記憶ではありませんでしたが……。

 

「新人ちゃんアルヴァと知り合いだったん?」

「はい、前線で一度……」

「こいつ気ぃ強くて癖のある奴なんだけど、顔見知りなんなら良かったわぁ」

「隊長に言われたく無いですよ」


 大口を開けて笑うガーラン大尉にアルヴァ一等兵が反論する。


 ガーラン大尉の元に集まったのは私含めて4人。

 随分少ないです。


「中隊と聞いて居ましたが……他の隊員はどちらに?」

 

「今日の作戦は2チームに別れて行動する事になっているの」


 ソルジア上等兵が状況を説明してくれました。

 

「ま、衛生兵ちゃんは俺らに挟まれて行動すりゃええから。作戦内容は移動中ソルジアに聞いてくれな」

「はい!分かりました!」

「んじゃ、出揃った事やし出発するで」

「「「はいっ!」」」


 ガーラン大尉を先頭に、ソルジア上等兵、私、後ろにアルヴァ一等兵という順で行軍を始めました。


「今回の任務は、ヴァッサの北西にあるべローニャの双塔の攻略ね」


 行軍中、ソルジア上等兵が作戦内容を教えてくれました。


「塔の中に敵が居るんですか……?」

 

「どうかしら……長年放置されていたみたいだけど、今後奪い合いになるのは明白よ。だから西国ヘルツカイナ兵より先に確保しておきたいの」

 

「分かりました!」


 第4中隊はべローニャの双塔を占領。

 今後ルミエール国軍の監視塔として使う予定だそうです。

 

「私達は正面左手の塔の攻略を目指すわ」

「分かりました!」

「アンジェ二等衛生兵は私の後ろ、アルヴァ一等兵の前で挟まれる形で塔を登ってきてね」

「はい!」


 ソルジア上等兵は一瞬アルヴァ一等兵の方を見ました。

 

「もし隊員の誰かが怪我をしたら、安全地帯を見つけるか、一度塔の外に出て治療をするように」

「分かりました!」


 行軍中、突然ガーラン大尉が足を止めました。


「君ら説明は終わった?もう少しで到着するからこの先は小声でね」


 振り返ったガーラン大尉は口に指を当て、静かにするように指示を出しました。


 少し進むとべローニャの双塔が見えてきました。

 開けた場所には出ず茂みに隠れます。


 ガーラン大尉は何やら反対側の茂みに向かってハンドサインを送り始めました。

 どうやらもう1つのグループとやり取りをしているようです。


「……よし、準備はいいかい……突撃するよ」

「「「はい……!」」」


 ガーラン大尉が飛び出した瞬間、反対側からも数名隊員が飛び出しました。

 どんどん距離が離れるガーラン大尉とソルジア上等兵の背中を慌てて追いかけます。


 ガーラン大尉が銃を構えながら塔の扉を蹴り開け、突入。

 どうやら入口付近に敵は居ないようです。

 

「……クリア、ソルジア行くぞ……」

「OK……アンジェ二等衛生兵とソルジア上等兵は少し後から着いてきてね」


 ガーラン大尉とソルジア上等兵が螺旋状の階段をゆっくり登り始めました。

 

 銃口を上に構え慎重に登っていき、踊り場に着いたようで、私達にも登るよう合図を送りました。


「わ、私達も登りますか……」

「そうだな、」


 アルヴァ一等兵と階段を登り始めた瞬間。

 バンッ!

 と銃声が響きました。


「敵兵発見! 下に行ったぞ!」


 ガーラン大尉の声で階段を見上げました。

 すると人が落ちてきて居ました。


「あはは! 見つけたっ……!」

「お、女の子っ!?」


 ガーラン大尉とソルジア上等兵の銃撃を交わし現れたのは西国ヘルツカイナ兵――。

 とはデザインの違う軍服を着た人物でした。

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