第8話:第3小隊
「改めて、ルミエール国軍司令部所属、少佐のアメッサだ」
一度、
1904年。
ノイ・チャイファル国境戦争が起きた。
3年後。
予定より長期の戦争により食料が底をついたことで停戦。
その後の1912年に開戦。
現在ではノイ戦線と呼ばれているな。
結果はルミエール国軍がノイを占領。
ノイは
そして1921年。
ヴァッサの国境線を巡って争いが始まった。
1925年の現在も尚その戦争は続いている。
ここまでが公になっている史実だろうか。
<4月7日司令長室>
「私に第3小隊の指揮権を?! 正気ですか総司令官」
「アメッサ」
「……失礼しました」
4月7日、突然総司令官に呼び出されたと思ったら第3小隊の指揮を取れとの指示だった。
全体で見ると南西戦線の戦況は平行線を辿っている。
しかし先日降った大雨で防衛ラインの衛生環境が悪化。
士気の低下が見込まれる。
そこで第3小隊を投下し、友軍が増える事で前線の士気を再度上げたいのだろうか。
ただ……。
「お言葉ですが総司令官、私はまだ齢
私は司令官になってから一度も指揮を任されたことが無かった。
それに自分の命だけならまだしも、他人の命まで責任を取りたくはない。
「君は我が軍が階級を知らない者達だと言いたいのか」
総司令官は顔をしかめ部隊人数等の詳細が書かれた書類を差し出した。
「失言でした、任務拝命しました」
「作戦を立て、再度報告に来るように。話は以上だ、下がれ」
「失礼します」
司令室に戻り、書類を閲覧する。
ルミエール国軍第3小隊。
小隊長ヴェンゲルを中心に
現状の南西戦線は第1防衛ラインの負傷者が多数。
そこに我々第3小隊が加勢するとの事だった。
彼等から見れば小娘が出す指示だ。
成るべく部隊内の消耗が少ない方法。
かつ完遂出来る作戦は……。
堰を切ったように一気にペンを走らせ作戦案を記入する。
〈4月10日
午前3時。
外は暗く簡易テントから漏れる明かりに照らされる中。
私は初めて第3小隊の隊員と顔を合わせた。
「本作戦及び第3小隊の指揮を任された。少佐アメッサだ。私はこの拠点から指示を送る。細やかな現場の指揮はヴェンゲル
「はっ! ルミエール国軍第3小隊、少尉ヴェンゲル。承知しました」
「コールサインこちらは〈Robert 3〉第3小隊は〈Baker 3〉だ。それでは第3小隊、行動を開始してくれ」
『はっ!』
第3小隊は南西戦線での任務を開始した。
作戦内容としては、側面攻撃による敵歩兵部隊への奇襲だ。
「こちら、『
「こちら『Baker 3』作戦通り南方へ前進中。現時点でこちらの動きは悟られていない。over」
「『Robert 3』了解した」
作戦開始から2時間、作戦は滞りなく進んでいる。
「こちら『
「こちら、『
「『Baker 3』了解した」
「ヴェンゲル
「よし、総員戦闘態勢を取れ。合図で行くぞ」
『はっ!』
交戦が始まった。
相手の
対してこちらは小隊25人の最小編成。
本作戦での壊滅は不可能でも撤退してくれれば良いんだが。
「こちら『
数秒後、突然通信機越しに
敵の手榴弾だろうか。
「こちら『
……。
…………。
「『
「ザザ……こちら、『
「……こちら『Robert 3』了解した。そのまま交戦を続けてくれ」
「『Baker 3』了解」
通信を切り、機器を降ろす。
ここは戦場だ。
こうなる可能性も想定した筈だ。
私は司令部の人間、数を理解しなければならない。
「………………よし」
再び通信機器を耳に当てた。
その後、アリー伍長の指揮の元、敵歩兵部隊は撤退。
他方面への加勢などで日が暮れるまで指揮をとった。
第3小隊の被害としては、ヴェンゲル少尉を含め死者3名。
重症5名。
負傷者11名。
3名の遺体は回収する事が出来なかった。
本作戦は成功した。
「『
「
解散し本部へ戻る頃には街灯で街中が照らされていた。
今頃第3小隊は後方の拠点で
「アメッサです。戦況報告をしに参りました」
「入れ」
「失礼します」
司令長室に入ると何時も通りの総司令官が座っていた。
「戦況は?」
「第1、第2、第3防衛ライン共に、全て異常はありません」
総司令官は報告書を一瞥し、戦死者名簿で手を止める。
「……第3小隊の指揮はどうだ。今後、人員の補充により暫く大きな作戦の参加は無いだろう。アメッサにはこれまで通り通常の業務に当たって貰いたい」
いつも通り報告をしたつもりだったが、人員を失った悔しさが顔にも出ていたのだろう。
自分が返事をしていない事にすら気が付かなかった。
「本作戦は私も承認している。結果は変わらなかっただろう、着いてこい」
「はい」
総司令官に連れてこられた場所は墓地。
一見何も無い大地ですが、この下には多くの戦友が埋まっている。
「ここには余り来ていない様だな」
「はい、私はここに居る人達の名前を知りません。追悼の気持ちはありますが、書類の数だけ人生があったと思えないんです」
初めにこの大陸の歴史を語ったと思うが、あれには公になっていない事実がある。
それはノイ戦線でヘルツカイナ軍が司令部として使用していた最後の拠点から発見された。
「感染症、銃殺、圧死、どんな死に方だとしても、ここに居る戦友の死が安らかなものだったと願いたい、愚か者です」
その資料によるとノイに諜報員の養成施設が存在したこと。
「見えない死には他人事になれますが、ノイ戦線の時、
ノイの養成施設は未だに発見されていない。
山脈の北に位置するノイの気候は荒れやすく。
10年経った今でも調査が難航している。
「総司令官、私には遠くの死と思える司令室の方が合っています」
私はノイで産まれた元ヘルツカイナ国民だ。
ノイ戦線に偵察兵として出兵。
捕虜となった後は
「……第3小隊の件承知しました」
「明日からは通常業務だ励むように」
話を終えアメッサが紅茶を1口飲む。
「……という感じだな。それと、私はノイで産まれた元ヘルツカイナ国民だ」
「へぇー!? 指揮する人ってそういう感じなんですねー……って、は? 元! ヘルツカイナ国! 民!?」
アンジェはびっくりして椅子から転げ落ちそうになっていた。
「隠しておく事でもないだろう、ノイは10年前から
「そうなんですね、?」
「私は士官学校に通いながら
「それで、アメッサは階級が上がって、司令部に所属することになったんだよね」
と、リラが補足をする。
「普通、元
「それでは、最後は私ですね」
レイチェルはケーキを皿に移し話を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます