第2話

「それでも俺は死ぬつもりだ」

俺はそう答えた。みんなの意思も固いようだった。全員俺の意見に同意したようだ。

哀川がそれを見て、少し微笑んだ後に再び話を始めた。

「じゃあ、椅子。片付けるか‼︎」

もう、各々背負ってるものもなく、心が軽くなったのか、ここで出会った頃には思い付かなかったくらい和気藹々と話し始めた。

「あ〜。水湊が遺書用意しとったんなら俺も書いとけばよかったやん。」

「ボールペンならあるけど、使うか?」

「ありがとさん。」


「これって、約五階から飛び降りて確実に死ねるのか?」

「屋上から飛び降りるなら、一応頭から落ちれば確実に死ねるはずだ。」

「なるほど。それは全員に共有しておいた方がいいな。」


「ずっとおもってたけどさ、杏翔くんって目の色綺麗だよね」

「ありがとうございます。錦さんも素敵なマフラーですね。」

「これ、お気に入りなんだ。」


橘は早乙女と。須藤は國守と。白羽根は錦と各々他愛のない会話をしていて、俺は哀川と椅子を片付けていた。

「ありがとうね。紅が一言言ってくれたからみんな決心がついたみたいだ。」

「まるで俺が殺したみたいな言い方だな。」

「ああ。そんなつもりはないよ。」

相変わらず掴みどころのない話し方。そんな彼が大事そうに持っておりノートを見てふと疑問が浮かんだ。

「そのノート。なんのためにとったんだ?」

それを聞き、哀川が微笑みながら答える。

「ああ。このノートがあるだけで各々の自殺理由が明らかになるし、色々したいことがあるからね。」

「したいこと?」

「まぁ、全員に許可とってからね。」

そう言い、最後の椅子を片付けると再び屋上に戻っていった。

そして、俺も全てを捨てるように屋上の扉を開けた。

「それじゃ、何点か確認ね。」

哀川が再び仕切り出して全員話を聞く。

「俺たちこれから死ぬわけだけど、このノートのデータ。それぞれのスマホに入れていい?実は一緒にメモ機能でスマホにもデータあるんだよね。嫌なら消すけど」

「一応質問だが、どうしてスマホにノートの内容を入れたいんだ?」

須藤の質問に、哀川が答える。

「もし、死んで、ノートが見つかって隠蔽される可能性が否定できないから全員のスマホに入れておけばロックかかってるスマホって普通の人なら開けないし、警察が確認して同じ内容の遺書みたいなのが見つかればこの死の重大性が伝わるかなって。」

その回答に文句を言う人はおらず、哀川からノートの内容を転送してもらい、再び確認作業に戻った。

「で、二つ目。これはさっき須藤と国守から聞いたことだけど、確実に死ぬためには頭から落ちる必要があるから各々それ気をつけて。」

全員が頷き、最後の確認となった。

「聞くまでもないと思うけど、全員。死ぬって選択でいいんだよね?」

その問いに俺たちはしっかりと今度は声に出して肯定した。

「「「「「「「もちろん。」」」」」」」

「ここにくるまでに未練は学校に置いてきたから。」

「まだ敷地内ですけど、私も錦さんと同じです。」

「せっかくやし、みんなの痛み背負って死ぬつもりやで。」

「やめろ。重いって。けど、俺もそのつもりだ。」

「そもそも、俺たちに死なないと言う選択肢はないからな。」

「そうだな。そうでなければ私たちはここにいない。」

「これが、総意だ。まとめ役の哀川。」

全員の声を聞き、哀川は颯爽と屋上の柵を乗り越えた。

「おっけー。じゃあ、みんなこっちきて。」

この柵を乗り越えればもう生き延びることはできない。だけど、そんなことすでに覚悟の上。俺たちは全員柵を乗り越えた。

「いくぞ。せーので飛び降りるんだからな。」

「いつ決めたそのルール⁉︎」

「まぁ、せっかくやしその案採用でええやん。」

「間違ってもせーのって言って裏切ったりするなよ。」

「そんなことをする奴は残ってない。はず」

「ええ。そうですね。全員とっくに覚悟を決めましたから。」

「それじゃあ、誰がせーのって言う?」

「折角なら、全員で言わないか?」

俺の提案に全員納得し、再び前を向く。

今日は曇天。だけど、今まで屋上で見ていた景色より綺麗に見えた。

「いくぞ」

「「「「「「「「せーの」」」」」」」」






その日、八人が同時に自殺したという事件は瞬く間に全国ニュースとなった。

年々若者の自殺件数が増えているこの頃、このような事件がないことを、そして、自分もこの小説と同じ末路を辿るかもしれないそんなことがないことを私は祈ることしかできない。

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