あまい夢

根子

ベラドンナリリー

 身を焦がすほどの暑い季節の訪れとともに、彼女はやってきた。


 「本間梨々愛です。残り半分しかない高校生活ですが、皆さんと最高の思い出を作りたいです。」

 彼女が入ってきた瞬間から、教室内はどよめき始めていた。転校生が珍しいというのもあるだろうが、それ以上に彼女の容姿がそうさせているのだろう。

 身長は165cmほどだろうか。ヒメシャラのようにスラッとしていてその半分を脚が占めている。艷やかな髪に縁取られた顔は掌で覆えるほど小さく、目鼻立ちは整っていて、唇はつやつやと潤っている。

 そんな町中を歩いているだけで騒がれるような人間が教室に現れたのだから、この盛り上がりようも頷ける。担任教師も、これを収めることはできないと判断したのか、彼女に座席を教えるとすぐに教室を後にした。それを皮切りに半数以上の生徒が彼女に押し寄せ、

「どこから来たの?」

「趣味は?」

「彼氏はいるの?」

と口々に質問をしていく。

 そんな光景を眺めながら隣に座る友人が呟く。

「ああいう美人に惚れるやつは今後が思いやられるな。」

「振り回された挙げ句、振られて傷つくやつな。」

おれは笑いながら返す。

 そんな偏見にまみれた会話を交わしていると、学級委員でもありムードメーカーでもある1人の男子生徒が叫んだ。

「今週末、梨々愛さんの歓迎会しようぜ!やりたい人!!」

その声で質問の嵐は止み、代わりに大波のように手が挙がっていく。

「梨々愛さん、みんな歓迎会したがってるみたいだけど来てくれる?」

 少し戸惑いながらも大きな目を細め、柔らかな笑顔をつくった彼女が、

「歓迎会開いてくれるなんて嬉しい。行ってみたい!」

と答えると、おれに纏わりつくようになまあたたかい風が吹いた。

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あまい夢 根子 @wataCreep

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