第9話 キャンプ

俺は今日、キャンプ場にやってきた。

テントが整然と並ぶ森の奥、空気は澄んでいる…と思ったら、BBQコーナーに置かれたグランドピアノが燃えている。

しかもその上には網が置かれ、肉だけでなく魚やホタテも火に炙られている。いや、火事やんけ。


すると魚が語りかけてきた。

「私は魚の格好をさせられている妖精です…こんなに燃やされて…焼き肉のタレをかけて食べるんでしょ?」

いや、魚が喋るってどういう状況や。


さらにホタテも話す。

「俺たちを食べて一瞬の快楽を味わうか、永遠の救世主として助けるか、どっちか選べ」

いや、突然選択迫られても…。


その瞬間、上から蝶のように舞い、蜂のように刺す自称BBQプロが現れた。

「惑わされるな!少年よ。魚やホタテはお前を試しているんだ」

いや、少年扱いはやめろ。試すって何や。


すると今度は全身緑のペイントをした緑野郎が現れる。

「助けてやれ、少年よ!」

いや、誰?お前誰や。


するとテントの中からは眩い光が差し込み、十字架に貼りつけられたキリストJr.が現れる。


キリストJr.が十字架の上で腕を広げ、光に照らされながら低く、しかし力強く語り始める。


「はじめに、天地は混沌であった。しかし少年よ、汝はこのBBQ場に立ち、魚とホタテの選択を前にして、心を乱すことなかれ…

我は告げる、火の上の肉は一瞬の快楽にすぎず、水槽に守られしホタテこそ永遠なり。

汝の目の前の全身緑ペイント野郎、BBQプロは、すべて試練である。

見よ、グランドピアノに燃える肉よ、網の上の魚よ、これもまた世の理。

惑わされるな、少年よ。迷うな、少年よ。口にするな、少年よ、心に決めよ。

そして覚えよ、我は常にそばにいる。選ぶことも、食べることも、助けることも、すべては汝の意志にかかっている…」

聖書みたいな句を読み上げ、俺に復唱させようとする。いや、日常やないやろ。


その間にも自称BBQプロは肉と魚をパクパク食べる。

緑野郎はホタテを自分のMy水槽に入れて持ち逃げ。

俺はただ茫然と立ち尽くす。

「何?これ?お前ら誰やねん!」


でも…ここではこれが日常なのだ。

魚が喋ろうが、ホタテが選択を迫ろうが、緑野郎が助けようが、十字架に貼りつけられたキリストJr.が現れようが、俺は淡々とBBQ場を眺める。

心の中でツッコミを入れながら、今日も平穏な日常の一部として受け止めるのだ。


時間が経ち、キリストJr.の声が遠ざかる。光も和らぎ、BBQ場はいつも通りの静けさを取り戻す。

俺はそっと立ち上がり、何も口にせず、その場を後にする。

日常だ。今日も、これが俺の当たり前の日常なのだ。


風が肌を撫で、砂の感触が足の裏に伝わる。

振り返らず、淡々と帰路につく。


淡々と、日常として。

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異世界 チャッキー @shotannnn

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