最終話 強く生きる
市の写真が雑誌に掲載された反響は、編集部の予想をはるかに超えて大きなものとなった。SNSでは「本物の姫が現代に!」という言葉がトレンドに上がり、彼女の凛とした佇まいや穏やかな微笑みは多くの人々の心を掴んだ。
その影響は講演依頼だけにとどまらなかった。街を歩けば、老若男女を問わず市に声がかかるようになった。
「市さん、写真見ました! 本当にお綺麗で……」
「一緒に写真、お願いできますか!?」
「まるで時代劇の世界から出てきたみたいです!」
人々の目に、市はまさに“和の象徴”であり、“時空を超えた美の化身”となっていた。
その様子を遠巻きに見ていた勝家は、どこか落ち着かない様子で腕を組み、ぼそりと呟いた。
「……ふっ、所詮俺は市と釣り合わぬ醜男よ。あれほどの美しさを持つ者の隣には、もっと絵になる男がふさわしいのだろう……」
その横顔には、名将らしからぬ拗ねた色があり、遠くから見ていた家臣たちが思わず肩をすくめるほどだった。
しかし市はそんな勝家の元に歩み寄ると、そっと彼の手を取り、まっすぐにその瞳を見つめて語りかけた。
「いいえ、あなたは醜くなどありません。誰が何と言おうと、私の目にはあなたは世界で一番、美しい心を持ったお方です。」
「……市……」
「私があなたを愛したのは、あなたが私を“美女”としてではなく、ただの一人の人間として見てくださったからです。飾らず、恐れず、真心で接してくださった……そんな殿方は、あなた以外にいませんでした。」
勝家はその言葉に一瞬呆けたような顔をしたが、やがてゆっくりと目を細め、市の手をしっかりと握り返した。
「……ありがとう、市。お前がそう言ってくれるなら、俺も……自分に少しぐらい自信を持っても良いのかもしれぬな……」
市は微笑みながら首を振った。
「“少し”ではなく、もっと自信を持ってください。あなたは強くて、優しくて、誰よりも真っ直ぐな人です。だから私は、あなたとこの未来でも共に歩いていこうと思えるのです。」
その言葉に、勝家は深く頷いた。胸の奥から、かつて戦場で燃やしていたような熱が再び湧き上がってくるのを感じた。
「よし、市。この未来の世界でも俺たちは共に生き抜いていこう。何百年を越えて生き延びたこの命、ただの偶然ではないはずだ。きっと、俺たちがここに存在する意味がある。」
「ええ。必ず見つけましょう。皆で支え合いながら、生きていきましょうね。」
それからというもの、勝家は家臣たちと共に現代の知識や技術を学ぶようになった。最初は戸惑いながらも、彼らは持ち前の鍛錬の精神と礼節をもって、多くの人々と交流し始めた。
歴史の講義では、当時の戦術や文化を解説し、護身術講座では実践的な戦国流の知識を伝えた。それは単なる“過去の語り”ではなく、“今に活きる学び”として現代人に感銘を与えた。
一方、市もまた、女性の生き方を巡る対話の場や、伝統文化を伝えるワークショップなどに積極的に参加し、現代女性たちと本音で語り合う時間を大切にしていった。時代は違えど、悩みや喜びは似通っていると気づき、彼女は多くの共感と尊敬を集めていった。
かつて戦の嵐の中を生きた二人が、今では未来の街の光の中で、人々に新たな知恵と希望を与える存在となった。
勝家と市。かつては死地で寄り添い合った二人は、時を超え、今は命ある限りを未来に捧げる“生の戦場”で共に歩み続ける。
その姿は、人々にとって“過去”と“今”を結ぶ希望の象徴となり、彼らの物語はやがて未来において、新たな伝説として語り継がれていくこととなった。
そして、それは単なる歴史の物語ではなく、「どう生きるか」を考えるすべての人への、静かなる道しるべとなったのだった。
ハイテクや 兵どもが 夢の跡 飯田沢うま男 @beaf_takai
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