第1話
何もなかった。ただ意識だけがぼんやり浮かび、時間が過ぎるのを感じる。死後の世界か。天国も地獄もなかったのか、あるいはこれが地獄なのか。ああ、両親はどうしているだろうか。いまだに泣いてやしないだろうか。私の脳が原因で喧嘩などしてないだろうか。などと考えていると、不思議な感覚がした。何もない世界に、私の意識を越えた実体が生まれた瞬間だった。
何かが蠢いているのを感じる。最初は蛇のようなものが私の全身を這っていると考えたが、そうではないと直感が告げていた。私自身が動いている感覚だと確信したのは、その動きを直視した時だった。
漆黒に歪な光が差したのは突然だった。視界いっぱいに広がる赤黒い肉。右も左も、つるつるした肉の壁だった。複雑に動くそれが、私の頭に繋がっていて首がうまく動かない。眼球だけを動かして下を見ると、私の骨格に肉がくっついては離れて、捻れたり丸まったりしていた。その光景と連動して、蠢くような感覚がしていた。
死後の世界とはこんなにおかしなものなのか。自身の意思と関係なく奇怪に動く、体にも見えぬ体を見つめていると、音が聞こえてきた。ゴロゴロ、グルグルと、肉壁が動くたびに音がしていた。するとだんだんねむくなってきて、そのまま私は眠ってしまった。
突然ゴウンと音が鳴って、私は肉に強く押された。そうして目を覚ました私は、なすすべなく腕をたたまれ運ばれていく。光がだんだん強くなる。外へ向かっている。私は何の中にいたのか。外には何があるのか。そして私の身に何が起きているのか。答えは得られるのだろうか。
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