実話怪談 じつわね……(大人向け)

@ratitami27

1、来る場所

 私が小学生だった頃、私たち家族は神社の裏手にある古いアパートに住んでいた。

 私の部屋は二階にある。


 私は弟の部屋にある二段ベッドの下段で寝ていたが、その生活は不思議と恐怖に満ちていた。

 私はほぼ毎日金縛りにあっていた。

 金縛りがはじまる前は、耳鳴りがする。これがはじまると、ああ、金縛りになるとわかる。

 いざ金縛りになると、意識はあるのに体が動かせない。しかし、目を動かすことはできる。

 呼吸もできるが、胸が圧迫されたように苦しい。体に浮遊感があって、気持ち悪い。

 そしてこの金縛りというのは、林間学校や友達の家へのお泊り会の時には起こらない。


 ある夜、家でいつものように寝ていると、再び金縛りがやってきた。しかし、その夜はいつもと違っていた。

 目を閉じているはずなのに、なぜか部屋の中が見えるのだ。だが、体は全く動かない。

 時間が経つにつれ、足元から何かがゆっくりと近づいてくる気配がするのがわかる。

 足元には1階に続く階段がある。

 その階段から、誰かが這い上がってくるかのような気配がした。

 ギシッ、ギシッ、ギシッ、ギシッ。木でできた階段のきしむ音が不気味に響く。恐怖で胸を締めつけられる。

 そしてその時、白髪の老婆が階段を這って階段を這って登る姿が見えた。

 本来、目を閉じている私がその姿が見えるはずはない。

 それに、老婆がいるのは階段の中腹あたり、ベッドの位置からは視界に入らないはずだった。だが、それでもその姿ははっきりと見えたのだ。

 老婆は白髪で、真っ白な着物を着ている。

 その老婆は、四つん這いでゆっくり、ゆっくりと怪談を這いあがってくる。

 とうとう、老婆が階段を上りきる。

 そして、寝ている私と目が合ったその瞬間、私の意識は途切れた。


 この話を聞いた人の多くの人は、それをただの夢だと思うだろう。私も当初はそう思っていた。

 だが、後に起こった出来事が、その考えを覆すことになる。


 ある日の昼頃、母が私のベッドで昼寝をしたいと言ってきた。断る理由もないので、私は快く了承した。

 母が眠りに入ると、私は机に向かい、勉強を始めた。

 机とベッドの間にはふすまがあり、それを閉めた状態で集中していた。

 しばらくして、ふすまの向こうから何かが聞こえてきた。

 ごにょごにょと母が私に話しかけてくる声だ。

 しかし、内容はよく聞き取れない。

「何て?もっかい言って」と問いかけても、再びごにょごにょと何かをつぶやくが、     やはりはっきりしない。

 少し苛立ちながら、私はふすまを開けた。

 すると、母はまだ深い眠りの中にいた。ごにょごにょと聞こえていた声は、どうやら寝言だったらしい。

 「なんだ、寝言か」と思い、ふすまを閉めようとしたその瞬間、寝言の内容がはっきりと耳に届いた。

「ばばあ・・・あっちいけ。くるな、あっちへいけ」

 その言葉に、私は凍りついた。

 先日、金縛りに遭った時の老婆の姿が脳裏に鮮明に蘇る。

 私はそっとふすまを閉じ、何もなかったかのように再び机に向かった。

 しかし、心の中では恐怖と不安が渦巻いていた

 あれは夢ではなかったのか?


 以上が、私が体験した恐怖体験。

 あれから何年か経ち、怪談に興味を持った私は、ある結論にたどり着いた。

 私が住んでいた古いアパートは神社の裏にあり、神社の敷地内といっても過言ではない場所に建っていた。昔はもっと神社は広かったに違いない。

 夜の神社には、神様ではない悪いモノが漂うということがあるという。

 あの老婆はただの夢だったのか、それとも、私の家にナニかが訪れていたのか。今となっては確かめようもない。


 ただ一つ言えるのは、あの古いアパートには、ときおりナニかがやってくる場所だということだ。




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