第25話 9月12日 昼

 白く清潔な天井と、定期的に聞こえる心音計の音。ここ数日で飽きるほど見た景色であり、聞いた音である。

 あの後、牡丹が呼んでいた鎮守特務庁のバックアップチームに救助され、俺は秋生町の大きな病院に担ぎ込まれた。どうやらここは鎮守特務庁の影響がある病院らしい。

『起きたかソーマよ』

「ああ、なんとかな」

 バックアップチームが救助に来た時、最初は俺を要救助者としてカウントしてくれなかった。それはそうだ、社の近くにはぐったりして衰弱した澄玲ちゃんと、そこら辺に転がっている次郎が居たのだ。しっかり立っている俺が、要救助者としてみられないのも仕方ないだろう。

 だが、牡丹が一言「この人神祓を使いました」と事情を説明したところで周囲の扱いが一変する。

 なんか担架に乗せられるわ服破かれて心電図とか取られるわ、意識を絶やさないためなのか病院到着まで延々話をさせられるわ、あんまり出来ない体験をした。

 最初は大げさな、と思っていた俺だが、検査の結果が出て気が遠くなる思いだった。

 両足骨折、右アキレス腱断裂、右腕筋断裂、手指圧迫骨折、気胸、腸捻転、内臓出血多数、その他諸々……立っているどころか、生きているのが奇跡だとまで言われた。

『しかし、今日で退院か、儂が同化しておいて助かったのう』

「ま、まあ……」

 医者に言われたのは、全治一〇ヶ月とかだったが、ナリが体内の負傷をひたすら治療してくれたため、ずいぶん早く退院することが出来た。なんと予定よりも九ヶ月以上早い、たった一〇日の入院生活だった。

 入院中はほぼ眠ったままだったが、ナリのおかげで面会時間に起きていることは出来たし、雄輝は面会謝絶がとかれると同時に見舞いに来てくれて、高校の課題やら出来事を事細かに教えてくれた。

「そうだ、昨日から桐谷の奴も学校くるようになったぞ。あとはお前だけだな」

 一昨日、雄輝からそんなことを言われた。どうやら次郎は神憑りの影響で、長めに入院(自宅療養)していたらしい。澄玲ちゃんの方は二日程度で回復したというのだから、霊障を受けるのと神憑りになるのでは、身体の負担が大きく変わるのだろう。それを言うなら俺の同化は一番身体の負担が大きそうだが。

 ここ数日のことを思い返していると、病室のドアが開いた。その先には、牡丹が着替えの入った紙袋を持って立っていた。

「退院だそうね」

「ああ、悪いな、退院の準備までさせちゃって」

 国道沿いの安い衣料店で買った事がありありと分かる衣服のタグを引きちぎりつつ、感謝を述べる。入院中は何かと世話を焼いてくれたので、彼女には感謝しっぱなしだ。

「元はと言えば、私が宗真を切ったのが原因なんだから、当然よ」

「何だよ、もう傷も塞がってる……というか、その傷と比べものにならないくらいズタズタになってたんだから、もう気にしなくていいのに」

 俺の身体の損傷は、何も肉体的な物だけではないらしい。

 天野鉾鉄の刀で切られたこと、長時間常世火安綱を握っていたこと、桐谷大神と戦ったこと、ナリと同化していたとは言え、神祓を使ったこと、それらの影響で一時的に霊魂自体が消滅してしまう危機にあったらしい。

 なんか牡丹の上司っぽい人がああでもないこうでもないと話したり、ナリが一時的に俺の身体から出てきて一喝したり、身体からナリが居なくなった瞬間、押さえられていた痛みが一気に襲ってきてショック死しかけたりと、なかなか騒がしかったのを覚えている。

「……」

「あの、牡丹」

「何かしら?」

 退院の準備をじっと見ている牡丹に声をかけると、無機質な返事が返ってきた。

「いやあの、俺、着替えたいんだけど」

「――っ!!」

 慌てて牡丹は病室の外まで出て行って、勢いよくドアを閉める。ごめんて。俺は心の中で彼女に謝罪した。


 退院の手続きは牡丹が済ませてくれていたらしく、俺は入院時に何も持ってきていなかったというのもあり、ほぼ手ぶらで退院することが出来た。

 清潔な白を基調とした院内から、自動ドアを通って外に出ると、むせかえるような熱気と目を細めたくなるような日差しが降り注いでいた。

「暑いな……」

「まだしばらくこの暑さは続くみたいね」

 十日程度外と接する機会が無くても、そう世界という物は様変わりしない。俺はそんな当然のことを実感したのだった。

「のう牡丹よ、ところで儂の社は修復されたのか?」

 俺の身体からナリが分離して、そんなことを聞く。ナリが居なくなったことで身体の中で未だに残る傷口が痛むが、歩けないほどの痛みではない。

「とりあえず、鳥居の修復と周辺の整備は桐谷家を通じて指示しているわ。こちら側からもある程度便宜は図るつもりだけど」

 ご神体の刀はまた安置したものの、周囲は荒れ果てていて、鳥居まで壊れてしまったのだ。俺たちがちょっと世話をした程度ではどうしようもない壊れ具合である。

「どうせなら見てから帰る? 宗真の家までの通り道だしね」

「おお、よいな、そうしよう」

 今日は文化祭準備かなにかで午前中で授業が終わる。だから日が高い今の時間だが、下校中の知り合いと顔を合わせるかもしれないな。俺はぼんやりとそんなことを考えた。

 国道沿いの車通りの多い道を歩く。なんとなく前までと違うような雰囲気を感じた。なぜそんな風に感じるのか、なんというか景色の色味が鮮やかになった気がする。

そう思いながら周囲を見回していると、そこかしこに作業服を着た人たちがいる。工事でもするのだろうか。

「市の方で、このあたりの再開発が行われるらしいわ」

 不思議に思って彼らを目で追っていると、牡丹が説明をしてくれた。

「今は話が出ただけ、計画を作るための測量をしているらしいわ。鎮守特務庁にも話が来ていて、あの駄菓子屋周辺も再開発の範囲に入っているそうよ」

「へー」

 あの駄菓子屋がなくなってしまうのは残念だが、まあ確かに高校側と違って俺の家や松鶴寺がある方は、お世辞にも栄えているとは言えない。国道のバイパスを作ったりとか、そういうことをするのだろうか。

 ふと、堕ちた氏神を調伏した事によって衰えかけていた土地が、また活気を取り戻したのでは。とか考えたが、流石に考えすぎだろう。都市計画なんて、すぐには発令できないんだから。

 国道沿いを抜けて、寂れた町並みの中へ入っていく。やはり、そこでも少しだけ景色が鮮やかになった印象があった。

「うーん」

 一体何なんだろう。怪我の影響とか、健康的すぎる病院食とかで、視力が回復したのだろうか。

「あ、久しぶり」

「えっ? あ――」

 松鶴寺への分かれ道のところで、見知った顔を見かけた。

「宗真先輩! それに牡丹先輩と成田ちゃん。お久しぶりです。お加減いかがですか?」

「うん、元気元気、明日か明後日には学校に行けるよ」

 澄玲ちゃんは、すっかり元気になった様子で、俺の呼びかけに笑顔で応えてくれた。

 桐谷大神を呼び出すためにやったことは、どうやら夢として処理されているらしい。一応入院もしていたので、彼女には「電話中に応答がなくなって、心配になって探しに行ったら道で倒れていた」という説明をしておいた。彼女の中ではナリの社で起きたことはすべて夢だったと思っているはずだ。

「よかった。私のせいでもあるので、本当に心配していたんですよ」

 ちなみに俺の方は「倒れている澄玲ちゃんを見つけて駆け寄ろうとしたら段差でずっこけて骨折」ということにしてある。秘密を守るためなら、俺のプライドなどやすいものだ。

「雄輝は文化祭の準備?」

「はい、予算とか出し物に関する規定を先生から説明されているみたいです」

「そっか、じゃあ帰ってきたら休んでる間いろいろして貰ったお礼もしておかないとな」

 鎮守特務庁の預かりになっていたからか、面会可能になるまでがかなり時間を要した。面会謝絶の間でも様子を見に来てくれていた牡丹は別として、雄輝は真っ先に面会に来てくれた手前、何も言わずに済ませるのは礼儀がなっていないだろう。

 ただ菓子折持って行くのも違うからな……ま、文化祭の仕事でこれから忙しいだろうし、借りの返し方はいくらでもあるか。

「それと、ちょっと待ってくださいね……」

 澄玲ちゃんはおもむろに自分の学生鞄に手を突っ込む。何だろう、忘れ物か何かかな。

「はい、遅くなったけど誕生日プレゼントです。おめでとうございます。宗真先輩」

「――」

 彼女の手にはラッピングされた袋が乗せられていた。その袋は有名百貨店の物で、まあまあ値段の張るものだというのが容易に想像できる。

「あ、ありがとう」

 なんかものすごい高いものじゃないよな? とか不安になりながら袋を開けると、中には小さなキーホルダーが入っていた。あまり高そうな物では無かったのでほっと一息である。

「良いね、こういうの」

 俺はキーホルダーを袋から出して、まじまじと見る。ミントグリーンの勾玉と桜色をした勾玉がひとつずつ付いたキーホルダーで、まあまあ重量感がある。シンプルながらも高級感を感じさせる物だった。

「はい、気に入ってくれたようでうれしいです」

 澄玲ちゃんは俺の反応に満足してくれたようで、俺が袋に入れ直して、入院道具の入った鞄に入れるまでずっとにこにこ笑っていた。本当にかわいいよな、こういう妹が俺もほしい。

「――じゃ、また明日。ここで言うのも変だけど、気をつけて帰るようにな」

「はい。先輩方も。病み上がりですから無理はしないでくださいね……あ、あと、牡丹先輩」

「? 何かしら」

 別れ際、澄玲ちゃんは牡丹を呼び止める。なんだろう、俺が休んでいる間に、何かあったのだろうか。

「……負けませんからね」

 何に? と言う疑問が浮かんだが、なんか黙っていた方がいい気がして、俺は牡丹の反応を待つ。

「ええ、私も」

「ほほーう……」

「???」

 なぜか以心伝心した澄玲ちゃんと牡丹、野次馬のようににやにやとしたナリ、そしてきょとんとする俺。そんな訳の分からない状況を経て、俺たちは澄玲ちゃんと別れる。彼女を見送った時、松鶴寺へ続く雑木林がなぜか輝いて見えた。

「……?」

「どうしたソーマ、何かまだ気になることがあるのか?」

「んー……いや、何でも無い」

 入院中は真っ白で彩りのない空間で生活していたから、その反動で自然の物とか、外の景色が余計きれいに見えるのだろう。俺はそう結論づけて、ナリの呼びかけに首を振った。

「ところでソーマ、その誕生日ぷれぜんととやら、どういう意味があるか分かっておるのか?」

 澄玲ちゃんと別れてしばらく経ったところで、ナリからそんなことを言われた。

「え、勾玉だから、魔除けとかそう言うの?」

 俺が思ったことをそのまま言うと、ナリだけでなく牡丹まで呆れたように眉間を押さえた。

「スミレがかわいそうじゃのう……」

「なんだよ、馬鹿にするならもっと直接的にいえよ、馬鹿なんだから伝わらないぞ、俺に」

「馬鹿というか鈍いというか……はぁ」

 牡丹は大きくため息をついて、説明を始める。

「貴方ね、翡翠とローズクォーツの勾玉が渡されているのよ」

「え、これアクリル樹脂とかプラスチックじゃ無いのか?」

 そう言われて俺はさっきしまったキーホルダーを取り出す。確かに言われてみると、樹脂の重さでは無い。

「分かっていると思うが、翡翠は古代より魔除けと繁栄を象徴する石じゃ。それを渡してきた彼女の真心をしっかりと受け止めるのじゃぞ」

「……はい、すいません」

 とんでもなく適当に受け取ってしまった。次会った時にはもっとちゃんとお礼を言っておかないとな。

「で、翡翠は良いとしてローズクォーツって何?」

「さあ、わからぬな、儂が知っておるのは翡翠だけじゃ」

「……私も、それは知らないわね」

 ナリは首をかしげ、牡丹は顔をそらす。二人とも知らないらしいので、後で調べてみよう。

 そんな話をしながら俺たちは古い住宅街を抜けて、桐谷の屋敷とナリの社への分かれ道まで来た。その分かれ道で見覚えのある会いたくない人影が、社の方をじっと見つめていた。

「……おう」

 無視して通り過ぎようかと思ったが、相手の方から声をかけられては仕方ないので、俺はその人影――次郎に向き直った。

「なんだよ」

「いや……その……」

 俺の短い言葉に、次郎は少しひるんだようにもごもごと言い出した。こいつが歯切れ悪いのは、なんというか、気味が悪い。

「……」

 俺たちの間に、重い沈黙が横たわる。

 当然だ。俺とこいつは犬猿の仲だし、わざわざ話すつもりも、要件もない。

 重苦しさと居心地の悪さにナリと牡丹に視線を振ってみるが、彼女たちは俺に干渉するつもりはないらしく、ただ我関せずという風にそっぽを向いていた。

「……あの時は、悪かったな、言い過ぎた」

 沈黙に耐えきれず、口を開いたのは俺の方だった。

「あ?」

「名前を馬鹿にするのは流石にナシだなと思う。だから、悪かった」

――長男が居るから二人目の男は適当で良いって、そういう理由でつけられたんだろ?

 しばらく合わなかった間、俺の脳裏でずっと引っかかっていたことはそれだった。今までこいつにやられたことは許すつもりはないが、あの時流れ込んできた記憶を見てからでは、こいつのことを悪く言う気にはなれなかった。

「――」

 驚いたような、俺が初めて見る表情だった。俺が見たことがあるのはゲラゲラ笑ったり、不機嫌そうに口をゆがめている姿ばかりで、その時初めて俺は、彼が同い年の人間だということを実感した。

「まあ、そういうわけだから」

「あのよ」

 心のつかえが取れたので、改めてナリの社へ向かおうとしたところで、次郎が呼び止めてきた。

「なんでかわかんねえけど、お前に一言謝っておきたかったんだよな。いや、謝ってなんか変わるってわけじゃねえんだが……」

 その瞬間、俺はものすごい顔をしたと思う。それはもう、今までに無いほどに。もし幽霊を見たらこんな顔をするかもしれない。そのくらい信じられない物を見た。

「とにかく、お前にもお前で辛いことがあったんだなって思った。だから、これからはやらねえ。悪かった」

「……」

 もしかしたら、あの時次郎の記憶が流れ込んできたと思っていたが、実はこいつの方にも俺の記憶が流れ込んでいたのかもしれない。

 再び沈黙が訪れる。だが、その沈黙は、さっきよりも重苦しくはなかった。

 これでおあいこな。とは言いたくないが、なんとなく、これからはこいつとも普通に付き合っていける気がした。

「じゃあな」

「ああ、俺も帰るわ」

 言葉少なに言葉を交わして、別々の道を行く。

 次郎はこっちの道をじっと見ていたんだよな、じゃあやっぱり、なんとなくあの時のことを覚えているのだろうか。神憑りになっている間、記憶は無いということだったが……

「良かったわね」

 しばらく人気の無い道を歩いていると、牡丹がそんなことを言った。

「まあ……な」

 実際問題、良かったのかと聞かれれば素直にうなずけない自分がいる。だが、良くないことが起きたのかといえば、それにははっきりと否定できた。だとすれば、いいことが起きたのだろう。

 俺たちは歩き、社へ続く石段が見えてきた。入院する前――つまりは桐谷大神と戦う前に、できる限り綺麗にしたおかげか、遠くからでも階段があることがよく見えた。

 石段を登り始めると、どこか涼しい空気が周囲を満たしているような気がした。木漏れ日から差し込む光も柔らかで、陽だまりが石段の途中にぽつぽつとどこか神聖な雰囲気を持って落ちていた。

「なんか、雰囲気変わったな」

 俺が素直な感想を口にすると、ナリと牡丹は首をかしげる。

「そう? 前回と同じだけど」

「うむ、見慣れた我が社じゃな」

「うーん、そっかぁ……」

 なんだろうな、目は何も異常は無かったはずだけど、後遺症が残っているのだろうか。しかし、物が鮮やかに見えたり雰囲気を違って感じたり、一体どうしたんだろうか。

 階段を上りきり、壊されて端にどけられた鳥居を素通りして、俺たちはナリの社までたどり着いた。振り返ると、木々に覆われた隙間から、古びた町並みが覗いていた。

「ううむ、鳥居だけでも早く直して貰いたい物じゃが」

「鳥居に使う材木はそう簡単に確保できる物じゃないから、鉄筋コンクリートでいいならすぐに建てられるわよ」

「む、材木を用意してくれるというなら、おとなしく待とうではないか」

 二人の会話を耳だけで聞きつつ、俺は深呼吸をする。気胸により穴の空いた肺が突っ張るような感触があったが、周囲の清浄な空気を体内に取り込んだからか、身体に活力が満ちた。

「っ……ふぅ」

 息を吐いたところで二人の方を見ると、どうやらこれから社をどう修復していくかという話をしているらしい。

「鳥居は最後として、周囲の剪定、整備からかしらね」

「うむ、そうなると賽銭箱やおみくじも欲しいのう」

「それをやるなら、ご神体をしっかり前面に出した方がいいんじゃないか?」

 ナリがこの社を観光地のように従っていることを察して、なんとなく提案してみる。

「安綱ってついてるってことは、歴史ある名刀なんだろ?」

「おお、良いな! どうじゃ牡丹、この提案は!?」

「……貴方達ねえ、ここが鎮守特務庁にとって特別な社だっていうことは分かってるでしょう? 流石に無理よ」

 牡丹のため息交じりの声に、ナリは不満げな声を上げる。なんとなく俺はその姿が微笑ましくて、肩の力が抜ける思いだった。

 ふと、視界の隅に嶋田佐恵さんの慰霊碑が見えて、ふと彼女達は向こう側で再会できたのだろうかと気になった。

 佐恵さんは間違いなく(あるなら)天国だが、宗太郎の方はどうだろうか、二人が向こう側でわだかまり無く一緒に居られたらと思う。

「……」

 今思い返せば、宗太郎が背中を押した時、目が合ったと言っていた。だから、佐恵さんは宗太郎が彼女の背中を押したことを知っているはずだ。

殺した相手が宗太郎だったことを知ってなおそれでも彼の事を心配していたのはなぜだろう。

「ソーマ、早く家に帰ろうぞ」

「あ、ああ……今行く」

 浮かんだ疑問はナリの声と、俺を待つ牡丹の姿で霧散してしまった。

「ていうかナリ、お前俺の家に住む気かよ」

「良いではないか、まだ傷も塞がりきっておらぬのだぞ」

 まあ、確かに。俺はナリが当然というような勢いで話すので、それに納得してしまった。

「……」

 社を後にする時、またあの慰霊碑が目に入る。

 ……多分、自分が死ぬことよりも、宗太郎が桐谷家の圧力に屈して最愛の人を殺してしまった悲しみを、慮れる人だったのだろう。

 俺はなんとなくそう思って、鮮やかな景色の中、石段を降りていく。

 多分、この鮮やかな世界も、俺の中にあった桐谷の霊障から解放されたおかげで見えるようになったのだ。根拠はないが、そう思った。

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神祓 奥州寛 @itsuki1003

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