「おだのぶなが? 久しぶりにその名で呼ばれたような気がする。お前は?」


「オレはカヤト。京の都の守り神だ。前に一度会ったよな。どうした。この世に未練でも残したか?」


「未練? 天下統一⋯⋯。違うな。未練などは何もない。ないと問題あるのか?」


「大いにあるな。神仏でもないお主が⋯⋯。まあいい。それで現世での名は?」


「服部半蔵⋯⋯」


なるほど、それで鎖鎌の男は憤ったのか。


「家康の下僕にまで堕ちて、なおこの世にしがみつく亡霊。オレが成仏の手助けをしてやろう」


オレがそう言うと織田信長は寂しそうに笑った。


「カヤトの名を騙る痴れ者が成敗してくれる」


オレが鬼導丸きどうまるを鞘に収めると世界に色が戻りオレの背に隠れていた茶鈴が前のめりに倒れ込む。その刹那、農夫のような小柄の男が鎖鎌を振りかざしてきた。オレは咄嗟に背後に倒れた茶鈴の身体をその男に投げつける。投げつけた茶鈴の身体を男の鎖鎌が突き刺す。その瞬間、茶鈴はオレの方を向きニタアとしたおぞましき表情を浮かべた。グサッとした感覚を最後にオレの頭は身体と切り離され地面にポトリと落ちた。


「こんな奴に半殺しにされるなんて沖田の坊やにも困ったもんだね」


オレの頭を踏みつけ、茶鈴は嘲笑る。


「二人ともそいつから離れろ」


僧兵のような大柄な男が叫び、鉄のこん棒を振りかざしてオレに打ち込んでくる。オレは左手で鉄のこん棒を掴みグニャリと曲げ地面に叩き落とした。


「お主、何者か?」


僧兵のような大柄な男はオレに訊く。


「何に見える?」


「お、お、鬼以外には見えぬが⋯⋯」


オレの問いに僧兵のような大柄な男はたじろぎながら答える。


「そうだな。オレは鬼だ。晴明様より鬼導丸きどうまると人の姿を与えられた鬼だ。だとしたらどうする? 服部半蔵」


オレはそう言って右の拳を僧兵のような大柄の男の顔面にたたみ込み男を地面に叩き伏せた。


「鬼がカヤトさまの名を騙るとは⋯⋯」


服部半蔵の言葉を聞き、オレは鬼導丸きどうまるを抜刀する。墨絵のような世界が広がり織田信長が姿をふたたび姿を現した。


「まあ、神仏なんて案外こんなもんだ。さっきも言ったがオレにもオレの都合がある。今回はこの辺にしよう」


オレはそう言うと人の姿に戻り後ずさる。織田信長が追う素振りを見せないので、彼に背を向け歩き始めた。


いまい殿はうまく逃げただろうか⋯⋯。


オレは比叡山を下りて京の都に向かって歩いていく。長州藩士がいなくなった後の京の町も物騒な状況だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る