十三
オレは雪乃と一緒に石山本願寺へと向かう。石山本願寺はまだ織田家に恭順を示していないため周囲は織田軍が包囲している状態でとてもじゃないが雪乃を同行させられそうもない。オレは一つ前の宿場町に戻って雪乃を説得した。もちろん大量の食べ物を確保して。
「雪乃、あの通り織田軍が包囲している石山本願寺に潜入するのは危なすぎる。半日足らずで戻ってくる。ここで待っていてくれ」
「そういうわけ……」
雪乃はオレの言葉に反論しようとするが目は完全に大量の食べ物に向き、心なしか口元からよだれが垂れている。
よし、作戦勝ちだ。
「じゃあ、行ってくる」
オレがそう言うと雪乃はすかさず食べ物にありついた。
何故あんなに腹が減るのだろう?
オレは単独で石山本願寺に潜入する。
どうやって?
こうするんだよ。
オレが
誰にも……。
「おやおや、カヤトさん。またお会いしましたね。物騒なものを出してどうされたのか?」
いつぞやの旅の僧侶、いや地蔵だ。ついでだ。訊けることは訊いておこう。
「
オレの問いに地蔵は黙り込む。
「カヤトとは何者だ?」
「京の都の守り人と聞いている。カヤトさん、そんなことも忘れたのか? どうりで長い間世が乱れているわけだ」
オレの問いに地蔵は答える。
やはり、オレは人外の類なのか……。
「
ん?
旅の僧侶は地蔵の姿に戻っている。時間なのか答えられる問いの数なのかどうやら制約があるようだ。オレはふたたび石山本願寺に向かおうとするとそこには墨絵ではない雜賀孫一がいた。
「様子がおかしいと思ったらカヤト殿か。いかがした?」
「顕如様の書状を教如様に……。そなた何ともないのか?」
雜賀孫一の問いにオレは答える。
「何とも? よくわからんがカヤト殿、右手はどうした?」
オレの右手には
「そなた、この刀が見えないのか?」
「刀? カヤト殿、冗談はやめられよ」
雜賀孫一はオレの右手を凝視する。
「教如様への書状であればここまでくれば織田軍は追ってこない。この状況をどうにかしろ」
雜賀孫一にそう言われオレは
「それで、それはどんな妖術だ?」
雜賀孫一がオレに訊く。
「妖術ではない。これは
オレは雜賀孫一に苦笑いをする。雜賀孫一も苦笑する。
なんだろう。
この違和感。
雜賀孫一の招きでオレは本願寺教如と謁見することになった。
「伊賀衆のカヤト殿か。遠路ご苦労である。顕如様からの書状もしかと受け取った。そなた、この書状の内容はご存知か?」
本願寺教如の言葉にオレは首を横に振る。
「某は本願寺顕如様より書状をお預かりしただけですので、その内容までは存じ上げておりません」
「承知した。では、この書状の内容が織田家にくだれというものであった場合にはそなたはどう思う?」
予想通りだが、オレがどう思うとか関係ないだろう。
オレはしばらく黙り込む。本願寺教如もそれに合わせるように黙り込む。
仕方ねえ。
「恐れながら申し上げます。織田家に抗する力がございますのであれば織田家にくだる必要はござらぬかと……」
「フフ、なるほど。そうきたか。さすが百地丹波に鍛えられた上忍候補。今回はこの辺にしておこう。それでこの後どうする?」
本願寺教如の問いにオレは答える。
「京の寺を巡ろうかと……」
「そんなに信心深い人間にも見えぬが、まあよい。精進しなさい」
それで本願寺教如への謁見は終わった。
最後の問いはどういう意図なのだろう。
オレは帰り道、雜賀孫一の護衛で参道を歩いていく。
「雜賀殿、某には織田家に抗する力がここにはないと思うが、何故そなたは教如様に協力するのだ。そなたの協力がなければ……」
「それは教如様もわかっていらっしゃる。忍びにはわからぬ意地というものが武士にはあるのだ」
雑賀孫一の言葉にオレは頷く。
まあ、オレは忍びというか、人間というのも怪しくなってきたからどうでもいいのだが……。
「そういえば雜賀殿は某が地蔵と話すのがわかるのか?」
「カヤト殿、何を冗談を申すか。地蔵と話せる人間はござらん」
いや、人間ではないとすれば……。
「ただ、なんとなくそれがわかるだけだ」
ひょっとして。
オレはおもむろに
やはりだ。
雜賀孫一は動かない。
さっきはオレが地蔵と話していたから……。
だとしたら……。
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