第2話 進級進学自己紹介

二、進級進学自己紹介



 新学期、新しいクラス新しい学校。

 高校生活に胸を膨らませる人間は少なくはないだろう。そりゃあ、不安がないわけじゃない。主に勉強とか勉強とか勉強とか。

 でもまあ、今は勉強への不安なんかどこ吹く風、クラスメイトはみんながみんな、希望に満ち溢れた顔をしていた。

 入学式を終え、ホームルームの時間。

 すでに友人が出来た人間も少なくなく、クラスはざわめいていた。


「皆さん、今日から一年君たちの担任になる、多田優都です」


 担任は優男だった。いかにも女子生徒に受けそうな、線の細いイケメン。クラス名簿を見るときだけ眼鏡をかける、っていうのもきっと、女子からしたらたまらないんだろうと容易に予想できた。だってほら、すでに友人同士になった女子たちが目配せして、きゃー、なんて口パクで伝えあっている。まったく女ってやつは何でこうもミーハーなのだろうか。

 とはいえ、担任が仮に超美人の女教師だった暁には、俺だって胸が騒いだに違いないが。

 まあ、男だろうが女だろうが、綺麗なものを好いてしまうのは自然のなり行きなのかもしれない。

 なんで、どうか副担任は美人な女教師でありますように、なんて、無理な願い事をしてみた。


「それじゃあ、少し時間があるようだから、自己紹介をしてもらおうか」


 担任の多田がしゃべる度に女子たちが色めき立つ。

 人は手の届かない恋ほど燃えるわけだ、つまり彼女らは実らぬ恋に恋をしている。


「次!」

「はい。山野井みことです。中学は都内の――」


 名前と出身中学を告げて、頭を下げる。

 この短時間で全員の名前と顔を覚えるなんて神業、俺には無理だ。俺だけじゃなく、このクラスにいる殆どが、そういう暗記系統は苦手であろう。

 何せこの学校はあまり偏差値は高くない。その上、受験は定員割れしていたくらいだから、この学校の受験で脱落する生徒というのは、本当にわずかしかいなかっただろう(そんな学校が今日から俺の居場所になるわけだが)

 とまあ、散々な言いようだが、この学校は悪いことばかりじゃない。俺がこの学校を選んだ理由、それは自由な校風にある。

 化粧禁止とは銘打ってあるが、実のところは今日この入学式ですら化粧をしてきた女子は少なくない。そして、そんな女子を注意する教師は皆無だった。

 男子だって、きっちり制服を着ているやつなんかほぼいない。俺もしかりだが、ブレザーのボタンをちゃんとしめてるやつなんかいないし、ネクタイだって緩く結んでいればいい方で、殆どがノーネクタイ。まあ、昨今はクールビズだのでビジネスマンでもネクタイをする機会が少なくなってきたわけだから、高校生がネクタイをしめる理由も失われつつあるのかもしれない。

 俺は教室の一番廊下側の席から教室内を見渡した。

 確かにみな、個性豊かな面々ばかり。

 気づかれない程度の茶髪、ピアス、化粧、ミニスカート。ほんとにみんな、自由人ばかりだ。

 そんな緩い学校だが、その実やることはちゃんとやる。自由と甘やかしはちょっと違う。

 基本的に全ては個々人の自由だが、進級、進学、卒業に際しては決まりごとがちゃんとしている。

 だから、か。

 不真面目そうなちゃらいクラスメイトの中に、ちらほらと真面目くん真面目ちゃんが混じっている。

 今時珍しい、ちゃんと制服を着こなす彼、彼女たち。

 俺がぼーっとクラスメイトを観察している中、自己紹介は進んでいく。

 この先一年、俺は誰と仲良くなって、誰とウマがあわなくて、どんな一年を過ごすのだろうか。

 期待をするのは馬鹿馬鹿しいと思いつつも、この先の高校生活にはやはり思いを馳せてしまう。俺も単なる十五歳、高校生活が楽しみだと思うくらいにはまだまだガキ臭さが抜けないんだな。なんて、感傷に浸っていたのもつかの間の出来事。


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