モブキャラな僕が、アホ可愛い系ヒロインのタイムループに巻き込まれた件
タカテン
第1話:その笑顔の意味を僕は知っている
モブキャラな僕が、アホ可愛い系ヒロインのタイムリープに巻き込まれた件
『人は誰だって人生の主人公である』
この言葉を最初に言ったのは誰なのか、実はよく分かってないらしい。
でも僕は、この言葉が大好きだ。
そして生まれてこの方ずっと誰かの物語の登場人物、いや、登場人物どころか
高校生活が始まって三ヵ月近くが経ってもいまだクラスに友だちのひとりもいないのは、まぁ、おおむね僕の責任だろう。
積極的にクラスメイト達へ話しかけることもなく、部活にも入らず、ただ淡々と家と学校を往復するだけの日々。
我ながらかけがえのない青春時代を無駄に過ごしているなと思う。
別に後悔はしていない。友だちがいなくても、別に困ってはいないから。
それに僕が所属する1年B組はいい人たちばかりで、教室の片隅でいつもぽつんとしている僕を揶揄ったり、イジメたりするような人はいなかった。
最初のうちは色々話しかけてきてくれたけれど、僕がどうにも居心地悪そうにしているように見えたのか、あるいは静かにひとり本を読むのが好きなのを理解してくれたのか、そのうち挨拶などの必要なやりとり以外はそっとするようにしてくれた。
いいクラスメイトたちに恵まれたと思う。
だから本日、6月23日も僕はいつもの時間に登校し、すれ違ったクラスメイトたちと必要最低限なコミュニケーションだけ取ると、窓際の一番後ろの自分の席で読書を始めた。
サイゴウ先生の『学校生活は時空少女とともに』の最新刊だ。
昨日購入して、昨夜のうちに一気読みした。
再び最初から読みなおすのは、それだけ素晴らしい内容だったからに他ならない。
主人公が恋をした女の子が実は
僕は椅子に深く座り直すと、騒がしい教室の中で静かに小説の世界へと没頭していく。
やがて主人公と同化する。
いつだって小説の中で僕は異世界を救う勇者だったり、魅力的な女の子たちに囲まれていたり、難事件を解決する探偵だったりした。
現実世界では何者でもない、何者にもなれない僕が、ここでは何にでもなれた。
疑似体験に過ぎないのは分かっているけど、手放すつもりは毛頭ない。
小説は僕の教科書なんだ。
こうやって生きていけたら、人とこんなやりとりをしていけば、僕だっていつか僕の人生の主人公になれる……そのノウハウを僕は小説から得ているのだ。
というわけで今は、タイムトラベラーな美少女との付き合い方について学んでいる。
この知識が直接役に立つことは、きっとない。
けれど、何かしらの応用は効くだろう、多分――
――なんて思っていたその時だった。
「もう、毎回毎回、いい加減にしてよねっ!!」
突然教室の扉が荒々しく開けられたかと思うと、クラスメイトの
日頃から喜怒哀楽の激しい子だけれど、基本的にいつも楽しそうにしている彼女が、ここまで機嫌悪くしているのは珍しい。
もっとも彼女に続き、へらへらとした笑顔を浮かべながら教室に入ってきた人物を見て、おおよその事情は察せられた。
きっと彼が甘酒さんにしつこく付きまとったのだろう。
貴重な朝の読書兼勉強時間に余計な邪魔が入った。
できれば我関せずと再び小説の世界に戻りたい。
でも、そういうわけにもいかない事情が僕にはあった。
普段ならふんわりと首元を隠している、かすかに茶色く染めた髪を振り乱した甘酒さんが、ずんずんと僕の方へとやってくる。
彼女の席は、僕の隣だった。
今の彼女に挨拶する勇気は僕にはないけれど、さりとて無視するのもよろしくはない。
ここはそれとなく気にはなるけれど、訊くのも躊躇われるふりをするぐらいの人間性が、問われる場面だろう。
残念なことに、そんなことをしながら読書の世界に没頭できるほどの器用さを、僕は持ち合わせていない。
あーあ、と内心がっかりしつつ、緊張した面持ちを浮かべて彼女が着席するのを待つ。
願わくば鞄を置いたらすぐに移動してもらえますように。
「…………」
ところがいくら待っても甘酒さんは自分の席に座りもしなければ、鞄を置くこともなかった。
何故か机の前に立ちつくしている。
どうしたんだろうと、焦れた僕はさりげなく目だけを彼女に向ける。
「……あ」
困ったことに目があってしまった。
甘酒さんが立ったまま、僕を凝視していたからだ。
「……えっと、おはよう、甘酒さん」
さすがに目が合ってしまった以上、無視するわけにもいかない。
とりあえず挨拶してみる。
野生動物の世界では目があったら喧嘩になるそうだけど、まともな人間同士ではそれなりの対応さえしておけばその可能性は低い。
今の甘酒さんがまともな人間と言えるかどうかは……神に祈るしかない。
「……え?」
甘酒さんがぎょっとした様子で目を見開いた。
挨拶を交わそうとする対応とは思えないけれど、まだかすかな希望を胸に、祈りながら次の言葉を待つ。
「私のこと知ってる……? てか君、誰ッ!?」
なんてことだ!
どうやら今日の彼女はまともじゃなかったらしい。
それでも神様は僕の願いを多少は聞き入れてくれたのか、彼女が僕にいきなり殴りかかってくるようなことはなかった。
代わりに僕のことをジロジロと見てくる。
頭の上から足のつま先まで、遠慮なしの視線に晒される僕。
さながら蛇に睨まれた蛙みたいだと思っていたら、突然甘酒さんはにこーと頬と目尻をどこまでも緩ませた。
その笑顔を僕は、日頃の学習の成果で知っている。
これは……きっと彼女にとっては都合の良いもので、僕にとっては甚だ都合の悪い展開になる時に浮かべるものだ。
「えっと、君の名前、訊いていいかな?」
笑顔のまま質問してくる甘酒さん。
僕に拒否権はあるのだろうけど、行使する勇気はなかった。
「……各務、
「かがみ……かがみ……かがみくん……」
甘酒さんが僕の名前を何度も復唱する。
そして目を輝かせるといきなり僕の両手を掴み、彼女は教室に入ってきた時とは一変してとても嬉しそうに、校舎全体に響き渡るんじゃないかって思えるぐらい大声で言った。
「やった! 新キャラだーーーーーーーっ!」
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