第31話 さあ、道標を辿っておいで
ピュアは、三番街に向かっていた。
一度見失ってしまった以上、やみくもにブランカを捜しても無駄足かもしれなかった。
情報を求めて通りすがりのサーバー・ステーションに立ち寄り、ESP情報を検索する。
検索中に考えた。
アリスは隠された最後の人格で、彼女を巡ってこの一件は展開している。
アリスがブランカ以上に危険な存在であった場合、どう対処すればいいのだろう。
もしかしたら、とんでもないものを揺り起こそうとしているのではないだろうか。
あの白昼夢の少年、カタン・デュミアンが言い残した『赤の女王』が目覚める前に、という言葉がどうしても胸に引っかかっていた。
ニュース・ファイルの中には、関連項目が並んでいた。
昨日の四番街教会前の公道が破壊された事件があり、その前の項に、一週間前の酒場炎上事件が記録されていた。
同じ種類のESPによるものらしいと付記されている。
調べろと言わんばかりの符合だ。
酒場が炎上したのは、ちょうど一週間前、ピュアがこの星に着く五日前である。
その深夜、二二時ごろ、一番街D五八の酒場バニティ・ムーンが、突然、爆発炎上した。
死者九名、重軽症者二三名を出す、大惨事だった。
これは、やはりあのブランカの仕業なのだろうかといぶかりながら、次に、陽色・マリエルを検索した。
すると、彼の項には、その前夜、爆発事件を起こす前のバニティ・ムーン付近で、原因不明の突然死をしたとあるではないか。
原因不明の突然死? バニティ・ムーンで?
これは、偶然の一致か?
いや。とてもそうは思えない。
しかし、D・Cはこう言っていた。
俺が殺した、と。
そして、ブランカも叫んだ。
――陽色を返して!
ピュアは首をひねった。
記録には、あくまでも突然死とだけあって、決して殺害されたなどとは書かれていなかった。
それがどうして「殺した」と「返して」になるのだ?
陽色の死と酒場の炎上の間に、まる一日のタイムラグがある。
バニティ・ムーンを炎上させたのは、やはりブランカか?
では、その理由は?
念のためにD・Cのアリバイを探ったが、彼が陽色を殺すには無理があった。
陽色が死亡した時間、彼は宙港でコーヒーを売っていたのである。
となると、やはり、あの男を詰問するのが早道かもしれない。
しかし、彼がそう簡単に喋るだろうか。
あれは、一筋縄ではいかない男だ。
それに……。
ピュアは、彼に会うのが怖かった。
もし、完全に敵対する立場であることがわかったら、自分は彼に照準し、引き金を引けるだろうか。
自信がなかった。
できるなら、二度と顔を合わせたくなかった。
彼の側にいると、どこか平常心でなくなる瞬間がある。
それが嫌だった。
任務に就いて、こんな問題を抱えたのは初めてだった。
プロとしてのプライドが許さなかった。
そしてもうひとつ、ピュアは記憶の片隅にひっかかっていたひとつの言葉を検索した。
――ジングウジライ……。
バズーカを撃ってきた無機人形から聞き出した名前だ。
それは、端緒かトラップか?
名前でネットを検索する。
科学雑誌に掲載された論文がいくつかひっかかった。
こんな名を持つ者はあまり居ない。
神宮寺雷。銀河連合ミルキーコントロール厚生府付属理化学研究所惑星メープル支所、細胞操作研究室室長。
画面にマーキングされたように、その男の肩書きがピュアを惹きつけた。
厚生府の理化学研究所で、どんな研究が行われているかと思うと、背筋が凍るような薄ら寒さを覚えた。
ミルキーコントロールにあって、厚生府は謎のヴェールに包まれた特務機関を多数抱えている特別な部署だ。
かつてそこの特務機関のひとつで傀儡狩り官として働いていたピュアは、その恐ろしさをよく知っている。
理化学研究所……。
それを脳裏に刻み込んで、ピュアは一番街に方向転換した。
ユウカは、妙な所で目を覚ました。
センター・ブロック地区を取り巻き流れる川のほとりに広がった、自然公園の
ここはどこだろうと見回して、四番ブリッジがそこに架かっているのを確認した。
今まで何度となく記憶の途切れや欠落を経験してきたが、公園で目覚めたのは初めてだった。
こんな無謀なことをするのは誰の仕業かと考えた。
派手好きなケイが雨の日の公園で昼寝を決め込むわけもなく、ブランカはずっと眠っているし、クリシアが迷子にでもなったのだろうか。
それよりも、ピュアはどうしたんだろう?
友達になって、一緒に食事をし、いっしょにこの星を出て、宇宙船の中で夜通し語り合うはずだった。
もしかしたら、とても危険なことがあってクリシアが現れたのかな、とユウカは首をかしげた。
ピュアを探そうと思った。
けれども、彼女の連絡先も投宿先も聞いていない。
携帯の番号くらい聞いておけば良かった。
あんなに意気投合したのに、このまま別れ別れになってしまうのは哀しすぎる。
ピュアは、ユウカがDIDであることを知ってもなお、屈託なく接してくれた初めての友達で、かけがえのない存在なのだ。
「あ、そうだ」
ユウカは、ひらめいた。
四番街教会に行ったら、あの親切な牧師さまがなにか教えてくださるかもしれない。
ここから教会までは、一キロと離れていないし。
教会で待っていれば、ピュアも立ち寄ってくれるかもしれないし。
雨脚は少し弱まり、霧雨になっていた。
ユウカは四阿を出ると、公園の柵をひょいと飛び越えた。
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