【第1回GAウェブ小説コンテスト参戦中❣️】それは、銀河の人材派遣会社(スターサーヴィス)~眠れる赤の女王
東條零
Prologue 子守唄を唄う午后
第1話 はじまりは、のどかな学園生活
聖マリィア学園の昼休みは、一週間でいちばん平和な時間だった。
おしゃべりに花を咲かせている女子たちの笑い声が響く教室で、男子はモップサッカーに燃えている。
高く浮いたモップに、少年Aが果敢なヘディング。
うどん状のヅラを被った姿でキメた。
ピュア・クイッキーは、窓際の席でのんびり惰眠をむさぼっている。
中高一貫校の四年生。十六歳。
銀髪のポニーテイルが、寝顔をふわりと覆い隠していた。
「ピュアさん、ピュアさん、起きてくださいませ」
上品な声で呼びながら、
「んー……?」
ピュアは、寝ぼけまなこ。
まぶしそうに目を細めながら、前に立つ愛紗を仰いだ。
愛紗は体をずらして、廊下側の席でさわいでいる女子たちを目線で示す。
甲斐の席を囲んで、数人が鈴なりになっていた。
「甲斐さんが、職員室の採用名簿をクラックしたそうですわ」
採用名簿をクラック……。珍しくもない。
職員室のコンピュータなんて、天才ハッカー甲斐にとっては庭のようなものだ。
「採用名簿?」
だるそうにピュアは体を起こし、額にはりついた前髪を散らした。
「来週から産休講師の先生がですね、いらっしゃるそうなんですの! 若い殿方ですってよ!」
フランス人形のようなふわふわ巻き毛をもてあそびながら、愛紗は説明した。
そういえば、担任のナタリーが産休育休に入るので、代わりの先生が来るとかなんとか。
「ピュアさん、どうしましょう。この学園にいらっしゃるのだから、身元の確かな、ご令息か何かなのでしょう? わたくし、見初められてしまうかと思うと、胸が高鳴りますの。ああ、教師と生徒の、禁断の……恋!」
愛紗は、身をよじって頬を染めた。かなりの重症。
愛紗の爪のあかを煎じたら、惚れ薬ができるに違いない。
「よかったね。学校来るの楽しくなるよ」
ピュアは適当に話を合わせてあくびをした。
「わたくし、どんなお洋服でお迎えしようかと、さきほどから決めかねていて……。お願いですから、相談に乗ってくださらない?」
「あたしに、あんたのフリフリの服を選べって? ……かんべんしてよ……」
愛紗は、甘ロリをこよなく愛する娘なのだ。
ピュアは、ため息ひとつ。
そのとき、耳に装着したイヤホンが、小さく震えた。
コールだ。
「あ、ちょっと、ごめん」
ピュアは左耳のイヤホンに、指先でリズミカルにタッチした。
声を直接頭蓋内から拾うようになってから、急速に普及したイヤホン型携帯電話だ。
モールス信号のような専用のタッチコードを打ち込むタッチメール機能が、爆発的に流行。
昔ながらのキー入力用のリストバンドもオプションで用意されているが、子供たちにそんなものはいらない。
画像には、コンタクトレンズ状の網膜投影用ディスプレイを使う。
『仕事だ』
頭の中にサージェントの渋い声が響いた。彼は、いわば、バイト先の店長、のようなものである。
「すぐ、行きます」
言いながら、ピュアは立ち上がった。
「え~? またおサボりですの? ピュアさん。今日こそは、アンシャンテリブル・アンクのお洋服を一緒に選んでいただこうと思っていましたのに」
ピュアは、愛紗に片手で拝んで詫びると、急いで教室を出ようとした。
「ピュア」
不意に呼び止められた。
振り返ると、話題のハッカー少年、甲斐・キタガワだった。
甲斐はスラリと背の高い、涼しげな目をした東洋系。頭脳明晰、品行方正。北川コンツェルンの御曹司。
「ねえ。明日の休み、どこか行かない?」
ピュアは、首をかしげる。
「えっとー……。なんか約束してたっけ?」
甲斐は困ったように眉間を寄せた。
「いや。今、約束しようとしてる……んだけど」
思い詰めたような瞳で甲斐はピュアを見下ろす。
見上げるピュアは身長が一五五センチしかない。
小さくて華奢で、色が白くて、触れたら折れてしまいそうなくらいに儚げだ。
首が痛くなるくらい甲斐を見上げて、ピュアはハタと思いだした。
そういえば、数日前の放課後、こいつはなにやら寝ぼけたことを言っていた。
「君とは合うと思うからつきあってみないか」
だったような気が……。
その日もちょうど、サージェントから呼び出されて、話は中途半端で終わっていた。
なのでピュアは、彼がなににつきあってほしがっているのか、確認するのをすっかり忘れていたのだ。
愛紗のように、買い物だろうか?
だったら、もう、目的の物は買い求めたことだろう。
「ごめん。バイト入っちゃったから、週末は時間ないんだ」
「バイト?」
「うん。あたし、一人暮らしだから、稼がないと」
この学園は金持ちのボンボンばかり。
甲斐は、バツの悪そうな顔で、「ごめん」とうつむいた。
「親が金持ちだからっていちいち謝ってたら、人間、小さくなるよ?」
あっけらかんと笑って、ピュアは甲斐に手を振った。
「じゃあね」
軽く手を振りながら廊下を駆けていくピュアの後ろ姿を見送りながら、甲斐は深く息をついた。
「報われないですわね。甲斐さん」
いつの間にか、甲斐の傍らに愛紗が立っていた。
二人のやりとりの一部始終を観察していたようだ。
「バイトかぁ。彼女、苦労を知らない人間は認めてくれないのかなぁ」
しみじみと甲斐はつぶやいた。
「確かに、あの子、妙に大人びたところがありますものね。ここの学園の学費も、奨学金を受けているという噂ですし。それが理由かどうかはわからないのですが、……わたくし、なんとなく、ピュアさんは誰かを好きになったりしないんじゃないかと、思うんですの」
「え?」
「だって、わたくしが恋の話を振りますと、いつも必ず、『そんなのわかんない』っておっしゃいますし。いつか問いつめましたら、面倒くさそうにこう言ったんですの『恋なんてしたことないからわかんない』って。それから、『恋なんてする資格がない』なんて、変なことも。あの子って、少しミステリーなんですわ」
甲斐は、愛紗の言葉を噛みしめるようにつぶやいた。
「……資格がない?」
愛紗は、難しい顔をして考え込んだ甲斐をニコニコと見上げ、胸の前で祈るように両指を組むと、声の調子を変えた。
典型的なおねだり声だった。
「わたくしの貴重な情報提供に見返りを求めるなんてはしたない真似はしたくはありませんが、甲斐さんがどうしてもとおっしゃるなら、お礼は新任の産休講師のデータ、なんかが嬉しいですわ」
甲斐は、乾いた声で笑うと、愛紗にオーケーとうなずいた。
ピュアは公道へ出て流しの
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