2100年

楠木の雛

2100年

 夏。

 そう書いて青春とも言うのかもしれないが、彼らはそんな朗らかで煌びやかな雰囲気を纏う言葉には、全く似つかない気分だった。

「──もう、誰もいないね」

「いつものことだよ」

 儚げに言う少女に対して、少女と双子である少年はぶっきらぼうに返した。

「それはそうだけどさ……やっぱりなんか寂しいよ。だって、誰もいないんだよ? 街に」

 人気の全く無い街路。

 静謐とも表現できるさまだが、少女の心持ち的には『寂しい』の漢字を含む、静寂という表現が相応しい。

 そんな、静寂な街の様子だった。

「事情は知ってるでしょ? 今日こんにち、僕たち人間はもう限られた範囲でしか過ごせないんだ。寂しさがあるのはわかるけど、慣れるしかないね」

 やれやれと肩をすくませる少年は確かに泰然としていた。が、どこかこの状況を億劫に思っている姿もあり、直後「退屈だよ……」と漏らす少女へ「退屈だね」と同調の言葉を返していた。

 そして、やはり寂しさに慣れた様子が、よけいに哀愁を漂わせていた。

「……」

 無言。その間隙に日が射し込む。

 窓に遮られてこそいるが、それは眩しく、美しく、煌びやかな夏を照らし出すに相応しいものだった。本来であれば。

 今では夏のこの光は人間に愚かというレッテルを改めて貼り、『後悔』という二文字をまるで悪夢かのように、苛烈に明瞭に蘇らせ苦を強要するもの。

 生きとし生きる物を焼き尽くすもの。

 だが、自業自得だから何も言えない。

 太陽に恨み節を言うなんてもってのほか

 もはや人間はこの双子と同様に、夏の青春を、粛々と奪われるのみだった。



 ──その時、窓から街を眺めている少女と、面白みも無い天井を寝転がって眺めている少年の過ごす一室に、テレビからニュースの音声が流れた。

『本日の最高気温は45℃です。今年も例年通りの猛暑が続いており、皆様、不要不急の外出を控えて──』

 蝉時雨もとうに焼かれ蒸発した夏。

 肌を撫でるクーラーからの冷えた風に、少女のため息が混ざった。

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2100年 楠木の雛 @kusunokii

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