第8話 中枢へ

 



 マザー・フロンティア。


 全メガロイドの中枢システムを管理する制御室。「世界を人間主体に戻す唯一の場所」とも言われており、それは人間たちの希望でもあった。


 今、俺たちは、そんな場所に足を踏み入れようとしていた。


 


  ───数時間前。



 「場所が分かった!? おっしゃあ、乗り込もう!」

 「…ああ」

 「どこに行けばいい? 走るぜ、俺は全速力で」

 

 俺が訊ねると、太郎丸は人差し指をピンと突き立て、場所を示した。


 「上?」

 「…ああ。TOKYOを包む、照明ドームの更に上、その場所にマザー・フロンティアがあると位置情報は示した」

 「要は空の上か。なるほどねぇ。面白い。ラストバトルはいつも大空の彼方って決まっているからな」

 「…そ、そうなのか?」


 そうなんです!


 「でもどうやって、あそこまで行く? 飛行機とか無ぇよな」

 「…無い。だが似た物は手にできる」


 太郎丸はこちらに来いと、手招きした。

 外へ出ると、思わず俺は息を呑んだ。自身の身体よりも大きい、大型のメガロイドがそこにいた。

 

 いやメガロイドと呼ぶには、いささか生々しい。

 鋼鉄の鱗に覆われた巨体。眼の奥で赤い光が点滅し、身体中を脈打つように規則正しく動いていた。

 まるでトカゲを機械で再構築したような生物が、闇の中に佇んでいた。


 「これはJ07。対人間粛清用、飛行型メガロイドだ」

 「粛清って…穏やかじゃねぇな」

  「…安心しろ。今は対人間のプログラムを書き換えてある。…遠隔でハッキングし、こちらに呼び寄せた。まあ操作できたのはこの一体だけだったがな」


  有能すぎる。


 「十分だ。これで上まで行けるな」

 「…ああ、だがその前に聞いて欲しいことが」

 「なんだ?」




 *




 「…よし行こうか」

 「ああ!」


  俺たちはトカゲ型のメガロイドにまたがった。

 轟音が一気に俺たちを包む。地面がどんどん遠ざかり、都市の灯りが線香花火のように小さくなる。


 飛んでいると、風がひどくなっていき、ゴオッという暴風が肌を裂き、肺をえぐった。俺たちは必死に背の装甲にしがみつき、吹き飛ばされないよう頑張った。


 しばらくすると、光があたりを包み込んだ。 照明球の近くまで来たんだ。直視すると目の奥が焼けるほど熱くて、目をギュッと閉じた。


 二度と開くものかと思うほど視界を閉じていると、瞼の裏でパチパチと白い光が弾けた。俺は恐る恐る目を開くと──別世界がそこに広がっていた。


 闇と光が交差する虚空。

 金属の柱が無限に連なっており、見えない何かを支えていた。空気は重く、息苦しく、鉄と油の匂いがほのかにした。無音だというのに、耳鳴りが響き、不快に感じた。


 「…まさか、上空にこのような場所があったとは。TOKYOとはまた違った雰囲気だ」

 「空間も不思議だが、もっと不思議なのはメガロイドだ」

 「…そうだな。敵の中枢だとすれば、監視用メガロイドが何体もいると身構えていたのだが…」


 杞憂だったな。

 まあ運が良かったともいえる。


 「…嫌な予感がする」


 太郎丸は呟いた。


 「まああまり後ろ向きに考えんなって。このまま行けば、目的地まですぐそこだ」

 「…ああ。このまま真っ直ぐ行けば、たどり着ける……なんだあれは?」

 「ん?」


 太郎丸の指差す方を見たが、俺の目にはただ闇しか広がっていなかった。

 

 「何も見えねぇが」

 「…見てみろ。集中して、じっくりと」

 「んー?」


 暗闇の中、何かが空に浮かんでいた。目を凝らしてよく見てみると、それは島のようであった。


 「見えたか?」

 「あれは…空飛ぶ島ぁ? まるでファンタジーだな。てかどうやって浮いて…」

 「…む。どうやら、あの場所が目的の場所のようだ」

 「え。じゃああそこが…」

 「ああ、あれがマザー・フロンティアらしい。…やっとたどり着いたぞ、みんな」










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