第13話 一歩も引かない彼女
「だからさ、ちょっと落ち着いてくれよ。別に付き合っている訳じゃないんだって」
「やっぱり、付き合っているんじゃない! 私って彼女がいながら、浮気するなんて最低だよ! 人間のクズ! ゴミ! 人でなし!!」
そ、そこまで言う事はないだろ……てか、人の話を頼むから聞いて欲しい……。
「だからさ、本当にあの子とは何でもないんだって。説明が難しいけど、ヒョンな事で知り合ったっていうかさ」
「じゃあ、あの子の名前と住所、年齢に電話番号、ラインのIDとか全部教えて。私と付き合っているなら、言う事聞けるよね?」
「いやあ、個人情報を勝手に渡すのはどうかと……」
「そうやって私に言えないって事は疚しい関係だって、白状しているようなものじゃない! 本当、最低! タカたゃんは浮気は絶対したりしないって信じていたのに!」
疚しい事なんか何も……してなくはないか。
でもキスをしてきたのは先輩が一方的にしてきたんだから、俺は悪くないだろ。
(だからって、小川さんには絶対に言えないけどさ……)
「本当にあの子とは何もないんだって。マジで信じて!」
「嘘ね。彼女、タカちゃんにあんなにフレンドリーに話しかけて来たじゃん。あの目、タカちゃんに完全に恋してる目だよ。鈍感なタカちゃんだってわかるよね? よほどのバカじゃなきゃだけど」
目を一瞬見ただけで、そこまで見抜くのは流石というか怖すぎるんだが、何か俺への風当たりがキツくて辛い。
本当に俺は悪くないんだって……事情を全部言えないのは辛いけどさ。
「と、とにかく本当に浮気とかじゃないんだ。あの子は、俺の友達だよ。そう、友達」
「どんな? どこで知り合った友達?」
「えーっと……向こうのコンビニでちょっと話が弾んだというか……」
「へえ。まさか、タカちゃんがあの子をナンパしたとでもいうの?」
「はは……いや、違うんだ。もう、本当に信じてくれって。マジで。な? 俺の言う事、信用できない? 後で事情はしっかり話すから、今はそれだけ信じてくれよ」
と、両手で小川さんの肩にしがみつき、必死に訴える。
もう宮下先輩のせいで、破局寸前だよ……そうなったら、どう責任を取ってもらおうかな、あの人に。
代わりにあの先輩と付き合う……だと、小川さんが一方的に損するだけだな。
「うん、信用できない」
「あっさり言わないでよ。じゃあ、何で付き合っているのさ」
「タカちゃんの事、放っておけないから。とにかく、私を怒らせたことだけは覚えておくことだね。今度のデートは覚悟しておくように」
「あ、ああ……」
てか、浮気を疑っていながらデートはするんかい。
小川さんもよくわからない人だな。
まあ別れるとか言われなくてよかったかも。小川さんが、俺に猶予を与えてくれたのかもしれない。
(帰ったら宮下先輩と話を付けなければ……)
あの人が俺に挨拶したせいで、こんな拗れた展開になってしまったのだから、しっかりと釘を刺しておかなければ。
今日は多分、アイドルの仕事かレッスンがあると思うので、夜中になったら電話かラインをして言っておかないと。
そして夜中になり――
「ん? 先輩からか……はい」
『はーい、高俊。元気してるー?』
「先輩……今日、何で俺に声をかけたんですか?」
ちょうど向こうから電話をしてきたので、ちょうど良いと思い、電話に出る。
『え? そりゃ、彼氏に会ったなら挨拶くらいはするでしょう』
「彼氏じゃないですし! 小川さんと一緒にいたのわかっていましたよね? あの後、彼女に問い詰められて大変だったんですからね」
『あはは、そうだったんだ。それで、もしかして別れるとかって話になっちゃった? ね?』
何で嬉しそうにそんなことを聞いてくるんだか。
もしかして、俺と小川さんの関係に亀裂を入れるためにわざとやったのか? 無垢な笑顔を見せておいて、やることが黒すぎるだろ。
「そういう話にはならなかったですけど、あの子は誰って問い詰められて、俺も困ったんですよ。先輩の名前とか出して良いのかなって」
『ん? 別に言ってもいいよ。アイドルやっている事は流石に言われるとアレだけど、ガールフレンドになら全部話しても構わないから』
「いいんですか、そんなことして?」
『構わないよ。あの子、私の事を他人に言いふらすような子じゃないでしょう。何か真面目そうな子だったし。高俊の手をぎゅっと握ってて、本当にあなたの事、好きなのね。何か燃えてきちゃったわ』
「…………」
俺と小川さんが仲いい所を見ておいて、勝手に燃えちゃうとか、この子はやっぱりおかしい。
天然というか、無神経な子なんだろうか……。
『いずれ、その子とは会って話を付けるわ。それで、高俊。今度の日曜、暇?』
「その日は彼女とデートの約束が」
『何時に終わりそう? 私、午後からオフだから、デート終わったら会おうよ。あ、いっそ三人で会う?』
は、話が全く通じない……小川さんとのデートも公然と邪魔する気満々じゃねえか。
『どうしたの?』
「いえ……とにかく、先約があるので。何時に終わるとか俺もわかりませんし」
『へえ。ちなみに行先とか聞いても良い?』
「付いてくる気ですか? やめてくださいよ、本当に」
『ふふん、どうしようかなー?』
そこは否定してほしいんだが、もはや公害レベルの明るさというか、ポジティブ全開な子なので、どうしたものかと頭を抱える。
「そんなに俺と小川さんを別れさせたいんですかね? 嫌がらせに思えちゃうんですけど?」
『うん。まあ、それは半分冗談だけど、直接会って話したいってのは本当よ。彼女とも良いお友達になれそうだしさ』
おいおい、本気で言っているのかこの子は?
二人を会わせたら、どんなことになるか……いや、小川さんの方からビシっと言ってくれれば向こうも納得……するとは思えないんだよなあ。
『というわけで、考えておいてねー。私の事、彼女に話しても良いのは本当だから。それじゃ、おやすみ。ちゅっ♡』
電話越しにキスをして、宮下先輩は電話を切る。
取り敢えず先輩から、小川さんに先輩の事を話しても良いという許可は得たが……。
やっぱり言えないって俺の口からは。
「はあ、憂鬱な気分だな……」
美少女に一方的に言い寄られるのがここまで精神的にきついとは思いもしなかった。
どうすれば良いのかわからないまま、時間が過ぎ、小川さんとのデートの日になってしまった。
「あ、こっちこっち」
待ち合わせの時間になり、駅前に急ぐと、小川さんは既に俺を待っており、彼女の元へと急ぐ。
「遅くなっちゃった?」
「ううん。時間通りだよ。んじゃ、行くよ」
「お、おおう……あの、そんなに強く腕を組まなくても……」
俺が来るや、小川さんが締め技でもかけているみたいに、がっしりと俺の腕を組む。
「これくらいしないと、あの泥棒猫の所に行きそうだし」
「泥棒猫って……あの人の事なら、何でもないって言ったじゃん」
「嘘だね。絶対、疚しい関係だよ。全く、私が目を離している間に浮気なんて……本当、信じられない」
とブツブツ文句を言いながらも、俺の腕を強く組んで、小川さんは引っ張っていく。
もしかして子供扱いされているのかな……彼女というよりはこれじゃ手のかかる子供を世話をする母親みたいな振る舞いだなと思いながら、デートが始まっていった。
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