第二幕 part1


次の日、いつも通り学校にいく。普段となんら変わりない。だけれど、私の足取りはどこか軽いような気がした。学校につき、荷物を席に置いてから自分の所属するグループの人たちのもとに向かう。

「おはよ。柳瀬さん、花島さん」

 そう言いながらグループに入っていく。

「ゆきちゃんおはよー」

 柳瀬怜やなせれい。おっとりとしている人で、クラスのいろんな人と仲良くしている。そして…

「ゆっきー昨日のニュース見ター?」

 花島夏樹はなしまなつき。男女問わず、幅広く仲良くしている。クラスでのちょっとした人気者。柳瀬さんと幼馴染だったりする。

「女性を狙って起きてる誘拐事件のやつ?」

「そレそレ」

「あれ結構近所で起きてるらしくてさ、怖いよね〜」

「どうせしばらくしたら犯人捕まるでしょ」

「だよネー。レイちゃんビビり過ぎじゃなーイ?」

「だって怖いじゃ〜ん」

「柳瀬さんとかかわいいから狙われちゃうかもねー」

「怖いこと言わないでよ〜」

 そんなこんなで話していると、予鈴ががなったので席に戻る。また退屈な時間が始まる。授業というのはとても面倒臭いものだ。本当なら全部寝てしまいたいが、中には寝ていると問題を当ててくる先生もいるため寝れない授業もある。まじでゆっくり寝させてほしい。適当に暇を潰しながら授業を聞いていると、先生が言った。



 「ここ、テストに出るからねー」



 ふと、先生の言葉が聞こえた。……あ。テスト、忘れてた。やばい来週からテストだ。すっかり忘れていた。勉強なんてもちろんしていない。授業もまともに聞いていない。つまり、赤点ということだ。まずい、流石にまずい。一年の1番最初のテストで赤点なんてとったら、一生クラスでバカ扱いされてしまう。私が脳みそをフル回転させていると、1人の女の子が声をかけてきた。

「……ええと、朝比奈さん、何か困り事?」

「あっ、宮原さん。どうしたの?」

「一緒に帰るって約束したでしょ。だから声をかけようと思ったんだけど、なんかすごい悩んでそうな顔してたから……」

そう言われてハッとする。周りには人がおらず、もう放課後にらなっていた。

「ごめん、宮原さん。ぼーっとしてた。早く帰ろう」

「うん……。けど、その前に何を悩んでたのか教えてくれない?」

「えぇ……」

 人に私は勉強ができないですって言うのなんか嫌なんだよなぁ……。バカにされそうだし。……けど、この人なら、大丈夫かな……。勇気を出して話してみる。

「実は……勉強全くしてなくて……テストやばくて……」

 頼む……バカにしないでくれ……。バカにしたらもう二度と一緒に帰ったやらないからな……。

「だったらわたしが教えてあげようか?」

 帰ってきたのは、予想外の言葉だった。

「え、宮原さん勉強できるの……?」

「これでも入試はトップだったんだけど」

「え!?そうだったの!?」

 そういえば入学式で新入生代表の挨拶をしてたような気がする。

「で、どこがわからないの?」

「あっ、えっと……数学のここがわからないんだけど……」

「あぁ、そこね。その問題はこの公式を応用して……」

 意外にも(学年トップだから意外でもないが)宮原さんの教え方はとてもわかりやすく、私がわからなかった問題を丁寧に解説してくれた。そして私達はそのまま勉強に没頭していた。

「ありがとう、宮原さん。助かったよ。めちゃくちゃ解説わかりやすかった」

「全然いいよ。それよりも外が暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」

「うん。もともとそういう約束だったしね」

 教室の鍵を職員室に返し、少し暗くなってきた街を2人で歩き出す。

「宮原さんって家でもたくさん勉強してるの?」

 ふと疑問に思っていたことを聞いてみる。

「そうだよ。勉強以外にやることもないしね」

 少し、意外だった。友達とメールしたり、ゲームしたりしてないのだろうか。

「ゲームとかってしないの?」

「しないかなぁ。興味はあるんだけどね。特に、えふぴーえす?ってやつはやってみたいんだけど、1人じゃよくわかんなくて」

「ふーん……」

 私とは大違いだなぁ。私の場合、家でやることといえばゲームか、ネットサーフィンだ。しかし、宮原さんみたいな人でもFPSに興味が湧くんだな。人は見かけによらないと言うやつだろうか。

「朝比奈さんはゲームするの?」

「えっ私?」

「それ以外誰がいるの?」

「私は……人よりは多い時間やってると思うけど……」

「じゃあさ、今度ゲーム教えてよ」

 意外な提案だった。ただ、その提案はむしろ嬉しかった。基本的に私はソロプレイしかしない。周りにゲームしてる友人とかいないし。だから、誰かと一緒にやるゲームとやらに興味が湧いていた。

「もちろんいいよ」

「やった!」

「ただ、ゲームするのはテスト終わってからね」

「もちろん。朝比奈さん赤点とか取らないでよ」

「流石に多分きっと大丈夫だよ知らんけど」

「めっちゃ保険かけるなぁ」

「けどやっぱり不安だからまた勉強教えてほしいなぁ……なんて……」

「そのくらい全然いいよ。朝比奈さんのお願いだったらなんでも聞くよ」

「なんでもはダメだからね!?」



 テスト当日。テストの難易度としてはそこそこ難しい方だと感じた。今まで通り勉強をしていなければ間違いなく赤点だっただろう。しかし、今回は違う。

 ――この問題、宮原ゼミで見たやつだ!(小並感)

 まじでほんとに面白いくらい宮原さんに教わったところが出てきた。今度から宮原様って呼んだほうがいいかな……。そんなこんなでテストも最終日までなんとか乗り切り、赤点は一つもなかった。なんなら結構上位の成績だった。今はただ、宮原さんに感謝を……。ちなみに宮原さんは成績トップだった……。やっぱすごいな…あの人……。


 そうして週末、私は家でとてもソワソワしていた。以前交わしたゲームを一緒にするという約束を守るため、私は宮原さんを家に招待した。(私の方がたくさんゲームを持っているから)そして現在、宮原さんがくるのを待っているというわけだ。ただ友人を家に招待しただけ、なのにどうしても落ち着くことができない。……大丈夫、部屋はちゃんと綺麗にしてるし、てか家全部掃除したし。飲み物とかお菓子も用意してある。準備は完璧だ。1人であたふたしていると、スマホの通知が鳴った。

「ついたよ」

 そう送られたメールを見て、

「わかった、迎えにいくね」

 と、返事をする。

 ……よし、心の準備はできた。

 私は勇気を振り絞ってドアを開ける。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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