バトリング・オブ・エイダ~現代ダンジョンを攻略し対人戦でトップを取り配信もバズらせる~

黄金馬鹿

再びエイダに触れて

エイダとダンジョン

 洞穴、ダンジョンの最深層。

 最も簡単であると言われているが、それでも今、最深層で戦っている彼と同じ年齢の子供が行くつくには、相当な努力と才能が必要と言われている。


「流石に体ができあがっていない分、しんどいか」


 そう呟く彼は、手に持った刀を振るいながら後ろに下がる。

 だが、下がる際に足は動かさない。ホバー移動だ。


「エイダのエネルギー残量はまだ8割ある。このままゆっくりと攻めてもいい、か」


 外からの通信はミュート済み。

 鬱陶しい講師からクソの役にも立たないアドバイスが垂れ流されているからだ。

 そして彼が口にしたエイダという物は、彼が今も纏っているパワードスーツの事を指す。

 生身の人間では到底攻略できない洞穴、ダンジョン。それを攻略するために産まれたパワードスーツ。それこそがエイダである。

 彼が纏うのは子供用のエイダ。子供用なだけあり性能は制限されているが故、このエイダでダンジョンを攻略するには相当な努力と才能が必要になる。そう言われていたのだ。

 だが、彼はそれを成し遂げようとしている。

 

「電撃、熱線……やっぱり行動パターンは変わらない、か。あまり遅くなって晩飯が遅れるのも面倒だ。とっとと片付けよう」


 飛んでくる電撃を刀で打ち払い、熱線を紙一重で避ける。

 そして、仕掛ける。

 

【戦闘モード起動】


 システム音声が流れるとともに、エイダのパワーアシストがONとなり、子供の体ながらも鉄板に拳で風穴を開けられるほどの膂力が生まれる。

 直後、転身。

 ホバー移動のまま、後退を前進へ。

 直後に放たれるボスモンスターが持つ巨大な直剣の斬撃を。

 

「当たるか」


 手に持った刀一本で受け流す。

 自身の真横で土煙が上がる。

 膂力の差は大人と子供どころではない。それでも振り落とされる場所を理解さえすれば、エイダの力ならば受け流す事は平然とできる。

 故に、その神業じみた行為を気にも留めず、背部ウェポンラックから片手で持てるサイズのサブマシンガンを引き抜き、ボスモンスターの顔面に向けて弾をバラまく。

 バラ撒かれた弾はボスモンスターの目に当たったらしく、ボスモンスターは声を上げ怯む。

 だが、相手の再生力は高い。目を潰したとしても、1分もあれば回復する。してしまう。

 それでもこう考えられる。1分も時間はあるのだと。1分間は相手はこちらを見ることができないのだと。

 ならばあとは蹂躙するだけだ。

 

【偵察モード起動】


 ホバー移動に使っていたスラスターを全力で吹かし、跳躍する。

 サブマシンガンを捨て、両手で刀を握りこむ。

 刀身の長さは十分。ならば後は、全力を以て斬撃を脳天から叩き込む。

 

【戦闘モード起動】

「終いだ。真っ向唐竹割り……ッ!!」


 斬ッ!

 鋼が肉を断つ音が響き渡る。

 必要ない血払いをして、刀を腰にマウントされた鞘へと納めると共に鯉口から鋼の音がもう一度響く。

 その音を合図に、ボスモンスターは左右で真っ二つに裂け、倒れ伏した。

 後に残るのは、ボスモンスターが使っていた剣と鎧。

 それを彼は、無機質な目で見つめる。

 嗚呼。

 

「ダンジョンもこの程度か」


 対人戦も、モンスター戦も。

 嗚呼、なんということだろうか。

 なんと。

 

「詰まらない。張り合いがない。やる価値もない。小学生の身がここまで嫌になるなんてな。高校生になるまではここ以外のダンジョンには行けない。仮になったとしても、行くには張り合いがない戦いが続く。はぁ、本当につくづく。つくづくだ」


 つくづく、詰まらない。



****



 ダンジョン。各国の地下に出現した、空間がねじ曲がった洞穴の事を刺す。

 これが出現し始めたのは西暦1980年頃だったと言われているが、実際はそれよりも前にダンジョンは出現しており、国が秘密裏にしていたと言われている。しかし、それは昔の事。陰謀論者しか触れないような事柄だ。

 2000年初頭に公表されて暫く、西暦2050年現在では、ダンジョンは無限に資材が湧いてくる宝物庫のような扱いをされており、それと同時に生身で入る事は叶わない洞穴でもある。

 

「と、いう訳で日本は21世紀になってから出現したダンジョンに対して自衛隊を用いた攻略を開始した。が、結末は教科書に書いてある通り、惨敗。過去稀に見る被害を生み出し、当時の内閣は責任を取って解散する事となった」


 では何故生身で入ることが叶わないかと言われれば、単純だ。

 自衛隊や海外の軍隊のような、重火器を手にした人間程度では適わないようなモンスターがダンジョン内には無数に湧いてくるのだ。

 そこには確かに資源がある。しかし、人間では歯向かう事も許されない悪魔が巣食う。

 最早ダンジョン攻略は諦めるしかない。そう思われた。

 だが。

 

「2010年、みんなご存知のエイダが開発された。そこから各国はエイダ開発に力を注いで、日本もこうやって発展したという事だ」


 Adventure Dungeon Attack Powered Suits。この頭文字を上手く取ってA.D.A。即ちエイダとなる。

 みんなが知っている。だが教科書がこのことを書いているため触れざるを得ない。

 故に面倒くさそうに教卓に立つ歴史教師がエイダの事に触れようとした時だった。各教室に備え付けられたスピーカーから、もう飽きる程聞いたチャイムの音が鳴り響く。


「おっと、もうチャイムか。じゃあ、次はエイダの歴史について触れていくからな」


 歴史教師のそんな言葉をキリとして、日直の号令が響く。

 もう何度もやった流れだ。

 授業が終われば後は休み時間……なのだが、歴史の授業の後はもうSHRをやって放課後の流れだ。欠伸をかましつつも机の上に広げたノートやらペン入れやら教科書を雑に鞄の中に突っ込む。

 

「なぁ、八紘。今日放課後どこ行くよ」

「あ? んー……まぁ、どこでもいいよ。ゲーセンでも行くか?」

「賛成……したいけど、ゲーセン行くなら一回帰らないとな。ほら、前教師が見回りかなんかで来てめっちゃ怒られたじゃねぇか」

「でも、別に校則違反もしていなければ法律違反も、店のローカルルールも違反していないって反論したらお咎め無しだったろ?」

「目ぇ付けられんのが面倒なんだよ。内申気にしている身としては」

「お前は無駄に小心者だよなぁ、九朗よ」

「うっせ。ちょっとの面倒で内申買えるんなら俺はそれが一番なんだよ」


 適当に片づけを済ませた生徒、東八紘は後ろの席に座る中学校からの腐れ縁、西村九朗と談笑を始める。

 苗字が東と西。ついでに名前も八と九、だなんてくだらない理由から縁を持つようになった2人だが、既に付き合いは4年目に突入。互いに好きなものも大体わかるし、いざという時は阿吽の呼吸で何とかできるような仲だ。


「あっ、先生来た。一旦黙るか」

「だな」


 もうちょっとは私語に時間を割けるかと思ったが、ドアからトイレに行っていたらしい生徒が早歩きで入ってくるのと同時に担任の先生がドアから入ってきた。

 それから始まるのはSHR。担任がこういう所にはあまり時間をかけたくない主義であるためか、号令もなしに始まったそれは5分も経たずに完了した。

 こういう面倒くさいからという理由から決まり事を破ってくれる先生は案外生徒人気が高い。

 故にこの後は放課後、かと思った。

 

「あー、それと東。この後ちょっと先生と一緒に職員室まで来てくれないか?」

「え? 俺っすか?」

「何も説教とかじゃない。ちょっとした確認だよ。そう時間も取らん。というか俺が取りたくない。面倒だから」

「そういう明け透けな態度、俺好きですよ」

「だろ? って事でSHR終わり。はい解散」


 号令もなしで解散。そのまま先生は八紘に対してこっちに来い、と手招きをする。

 どうやら鞄だけ持ってとっとと行った方が良さそうだ。


「わり、九朗。先校門まで行っててくれないか?」

「おう。にしても運が無いな。説教なんて」

「馬鹿がよ、俺はルールを使ってゴネるけど、ルールは破らねぇんだよ。即ち、説教じゃない」

「お前のその社会人みたいな俺ルール、ほんとすげーと思うよ。んじゃ、先校門で待ってるからな」

「あいよ」


 九朗はそう告げると鞄を片手に教室を出ていく。

 それを尻目に八紘も担任の元へと向かうと、そのまま担任は職員室に向けて歩き始めた。

 八紘もそれに続き、特に会話はせずに職員室へ。

 担任の席まで移動して、担任が座った所でようやく本題だ。

 

「よっと。で、だ。東。直球で聞くが、お前エイダに興味ないか?」

「っ」


 エイダ。先の授業でも出たばかりのモノだ。

 エイダは開発されてから10年ほどは自衛隊が独占していた。だが、それ以降は民間にも卸されている。

 それはなぜか。端的に言えば人手不足解消のためだ。

 ただでさえ自衛隊はやることが多いし予算が不足している。故にエイダを乗り回し続けていたらあっという間に予算など空になる。だというのに、ダンジョンから取れる資源は無視できない。

 ダンジョンから採掘できる鉱石、『ダイナタイト鉱石』は当時使われていた化石燃料に変わる、今や社会の根底に根付いた燃料だからだ。

 一度に抽出できるエネルギーこそ上限はあるが、人手さえあれば幾らでも掘り出せる上に、環境にも優しいソレは底が見えていた化石燃料を淘汰した。

 しかし、その結果起こったのが、ダイナタイト鉱石をエイダで採掘する自衛隊員の不足と自衛隊の予算不足。

 故に民間にもエイダを着用してダイナタイト鉱石を採掘する事を許した、という事だ。勿論、自己責任で。

 

「……先生、俺、エイダバトルには関わらないって決めてるって言いませんでした?」

「言ってたが、人間ってのは心変わりする生き物だろ? ……って言いたいけど、俺も正直聞きたくはなかった。お前が不機嫌になるしな。けど、聞いてくれってお願いされちまってな」

「誰に?」

「エイダバトル部の部長。わざわざ女の子が俺に頭下げてお願いしてきたんだ。無碍にするわけにもいかんだろ」

「それは……まぁ、確かに」

「他の生徒なら断るかもだが、お前はなんだか無駄に大人だからな。聞いちまってもいいかと思って」

「俺への扱いよ……」


 それ故に。社会は優秀なエイダ乗りを求めた。

 エイダに乗る素養を持つ者を見つけるため。そして、新たな歯車を見つけるため、学生や社会人に対してもエイダに触れる機会を与えたのだ。

 それが、エイダバトル。

 互いにエイダに乗って戦うというシンプルな競技であり、現在ではオリンピック競技にもなっている立派なスポーツだ。

 八紘はそのエイダバトルと、少なくない因縁があった。

 目の前の担任からは、この学校に入学してすぐ、できたばかりのエイダバトル部に入らないのか、なんて言われたのだが、それももう約1月前。まさかまたこの部活の事で話題を振られるとは思わなかった。

 

「それにお前、エイダバトルには関わらないのにエイダでのダンジョン探索は目指してるだろ? そのためにいい大学行くにしても、就職するにしても、エイダバトルに触っておかないと結構きついぞ? 特に就職は。何せ、エイダバトルは実力主義。就活では経歴と結果は間違いなく聞かれるし、選考の要素になる」


 当たり前だ。ダンジョン探索は命を懸けなければならず、更にエイダそのものも安くはない。重機と同じ程度の値段はする。

 故に企業は基本的に即戦力となるパイロットを集めたがる。

 その指標が、学生時代に残した結果だ。


「分かってはいるんすよ。分かってはいるんすけど……すみません、これは俺個人の問題なんで」

「そうか……それは、お前が小学生の頃にエイダバトルしてた頃と関わってるんだな?」

「まぁ、はい」

「だったら俺は何も言わん。面倒だしな。あの子には断られたと言っておく」

「ありがとうございます。ところで……なんで俺の情報がその子に握られたんです?」

「友人から聞いたって言ってたけど」

「俺の事を知ってるやつが友人に……? まぁ、分かりました。じゃあ、帰ってもいいですか? 俺、ゲーセン行きたいんすよ」

「おう。あぁ、ゲーセンで思い出した。お前、先生に歯向かうのは止めておけ? 正論で論破してたみたいだが、件の先生、結構ご立腹だったぞ? 生徒は先生のいう事に従うべきだって」

「でもルールは破ってない。なら問題なくないですか?」

「違いない。けど、俺にクレームが来たんだから勘弁してくれ」

「善処しまーす」


 そう言って職員室から出ていく八紘。それを以前ゲーセンで見かけたことがある先生が目で追っていたが、気にしない。

 そのまま廊下を歩いて昇降口へ。そして、靴を履き替えて校門に行くと、校門から出てすぐの所で携帯を弄っている九朗を見つけた。

 どうやらソシャゲをやっているらしい。指はちょっと忙しなさそうに動いている。

 

「九朗。おまた」

「ちょっと待ってくれ……よし、一心地ついた。で、何説教されてきたん?」

「エイダバトルに興味ないかって」

「あぁ……で、どうしたんだ?」

「断った。俺はエイダバトルはやりたくない」

「だろうな」


 九朗はそれ以上、エイダバトルについて突っ込まなかった。

 八紘に何があったか、九朗も知っているからだ。


「よし、そのまま『迅雷』はここに下ろせ! 後は俺が動かして倉庫まで運ぶ!」


 そうして、少しだけ重い空気が流れる中、近くの会社からそんな声が響いた。

 思わず2人してそっちの方を向くと、そこにはトラックから降ろされる、人型ロボットを人間大にまで小型化した物があった。

 あれこそがエイダ。人間が着こんで戦う、人間大のパワードスーツ。モビルスーツとか、アーマードコアとか、ナイトメアフレームとか。そうやって呼んだ方がまだ違和感が無いような外見だが、間違いなくアレはエイダ。

 この星のどこでも使われている、無限の動力『ダイナタイト鉱石』のエネルギーを使って動くパワードスーツだ。


「エイダか……」

「第三世代、日本の主力量産期の『迅雷』だ。特徴が無いのが特徴。九朗、お前がもしもエイダに乗るんならあんなのは止めておけ。初心者ならまだいいが、上級者になればスペック不足だ」

「お、おう……」


 ――エイダは、好きだ。

 だが、それでも。

 エイダバトルだけは。

 あの紛い物だけは、好きになれない。

 八紘はエイダから目を離し、前を向いた。

 この世界に産まれて。そして、喜んで。エイダに乗り込み、戦って。

 待っていたのは、失望だった。



****



 あとがきになります。

 

 あとがきでは本編の零れ話とか、ちょっとした設定を書いていきます。

 あと、面白いなーと思っていただけたら星とかハートとか貰えるとありがたいです。

 ということで最初の設定はダンジョンについて。


・ダンジョン

モンスターとダイナタイト鉱石を生み出す洞穴。ダンジョンコアと呼べる物は存在せず、無限に周回が可能。

ダンジョン毎に出現するモンスターの数、種類、強さに差があり、難易度に応じて産出されるダイナタイトの純度と大きさが決まる。

本作は日本の話なので日本の事しか話していないが、海外にもダンジョンは存在しており、ダンジョン探索には各国がそれぞれ力を入れている。

一番最初に国民にダンジョンの存在を発表したのは実は中国。その後追いで次々と国毎に発表が続いた。発表した理由はダイナタイト鉱石の採掘を、表向きの軍などを使って手早く行い、数多くのダイナタイトを欲しがったため。

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