第26話(エピローグ)「卒業の日に」

季節は巡り、卒業式の日。

 体育館の壇上で卒業証書を受け取りながら、俺は客席にいる葵を見つけた。

 微笑む顔が、あの日より少し大人びて見える。


 式が終わると、校門の前で待っていた葵が駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、卒業おめでとうございます!」


「ありがとう。……やっと言えるな」


「え?」


 深呼吸して、まっすぐに葵を見る。


「俺と正式に付き合ってください。もう隠す必要ないんだ」


 葵が目を見開き、そしてゆっくりと笑った。


「……はい。ずっと待ってました」


 その瞬間、背後から父さんの声がした。


「……約束は守ったな」


 振り向くと、父さんが腕を組んで立っていた。

 険しい顔だったが、ほんの少し口元が緩んでいる。


「認めるよ。……ちゃんと幸せにしてやれ」


「はい」


 葵が涙をこぼしながら、俺の手をぎゅっと握る。


「これからもずっと、一緒にいてください」


「もちろん」


 校門を出ると、春風が二人の間を吹き抜けた。

 もう誰にも隠れる必要はない。

 この手を離さず、これからも歩いていく——。

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