第21話 泥棒さんは経験で語りたい



【今回は琴音目線です】


ずっと気になってたことがある

声が出せなくなるほどの事故があったなら

流石にあたしの耳にも届いてるはず、ということ


なので、今日は柊奈っち達に店番を任せて

交番に赴いた


「あれ〜葉山じゃん?遂にお縄につきたくなったか?」


中に入るなり、巡査部長である坂本 夜宵(やよい)がからかってきた


「違う、今日は調査を依頼しに来たの」


「依頼〜?そんなの私がやらなくてもあんたで十分でしょうが」


「あのさ、そんなだらけてるからあたしの仕事増えるんでしょうが。ちっとは働きなよ」


「うわ、葉山がまともなこと言ってるよ。成長したな〜このこの〜」


うざ………

あ、やばい、つい本音出そうになった

このままじゃ一生本題入れないから

柊奈っちの写真を机に置いて強引に進めた



「高津柊奈、この子について調べて」


「あ〜この子、事故物件に住んでる子だろ?一回だけ見に行ったことあるよ。いい子だよね〜」


「知ってんなら話早いね、声出せないでしょ?その理由ってほんとに事故なの?」


「ちょいちょい、私は探偵じゃないからプライベートのことは調査出来んよ」


「…………缶ビール3杯」


「待ってな!今すぐ準備してくらぁ!」


夜宵、ホントちょろくて助かる

しばらくコーヒーを飲んで待ってると

大きなファイルを何個か持ってきて机に広げる

ここ3年くらいの交通事故の書類だ


柊奈っちの話じゃ中卒ですぐこっちに引っ越してるはずだから

割と最近のはず

あたしも手分けして探してると

全然そういった話は出てこなかった


……おかしいな、柊奈っちがあたし達に嘘をついてた?

あの子に限ってそれは……

と考えてたら夜宵は住民票リストを引っさげてきた

それ警察持ってるんだ……とか思ってると

柊奈っちの住民票が出てきた


「お、ビンゴ。ほら見てみな」


夜宵が指さした先には親の欄

母の名前しか載ってない……?


「あの子、母から米の支援を貰ってるのは前に見たんだけど、それ以降、家族の話一切聞かないんだよね」


「つまり、親と何かあって……声をなくした……?」


「だろーね、ここから2時間ぐらいする場所にあるよ、行くかい相棒?」


夜宵はパトカーの鍵を持ってあたしにチラつかせる

ちょっとやめてよ、警察はとっくにやめたんだから……

行くってことは、人の事情に直接入り込むことを指す

少し怖いけど……あたしは知らないフリをしてられるほど

器用じゃないんだ、ごめんね柊奈っち


まあでも、たまにはいいか




「……行く」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る