記憶の運び屋

紡月 巳希

第十三章

メメント・モリの新たな顔


カイトの言葉が、私の心に新たな使命の火を灯した。私はもう、ただの記憶を失った画家ではない。母から託された使命を背負い、真実を取り戻すための、記憶の運び屋の「鍵」なのだ。喫茶店「メメント・モリ」は、もはや安息の地ではなく、戦いの始まりを告げる、静かな前線基地へと姿を変えた。

カイトは、カウンターの奥から古びた地図を取り出した。それは、この街の地図のようだが、ところどころに不自然な空白や、奇妙なシンボルが描かれている。

「協会は、この街の記憶そのものを操作している。彼らの拠点は、この地図の空白地帯…本来なら存在しないはずの場所に存在する。我々の最初の作戦は、その一つに潜入し、君の記憶が持つ『真実の欠片』を使い、改ざんされた記憶を修復することだ。」

私の心臓が、ドクンと大きく鳴った。作戦…潜入…。まるで映画のような話だ。しかし、カイトの瞳には微塵も迷いがなかった。

「だが、それは非常に危険な賭けだ。協会の施設には、君の記憶を消し去ろうとした男、シャドウのような危険な人物が潜んでいる。君は、自分の記憶を危険に晒すことになる。」

私は、もう一度自分の腕の中にある木箱を見つめた。温かい鼓動が、私の心に勇気を与えてくれる。これは、母が守ろうとした真実だ。そして、私が取り戻すべき、私自身のものなのだ。

「…やります。私、やります。」

私の決意に、カイトは静かに頷いた。

「では、最初の作戦だ。君の母親が残した手がかりを元に、協会の隠された施設を探し出す。そこには、過去に奪われた芸術家の記憶が保存されている。君は、その記憶を修復し、この街に真実の色彩を取り戻すんだ。」

私の心に、新たな目的が生まれた。それは、ただ過去を知るためだけではない。未来を、そしてこの世界の真実を守るための戦いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶の運び屋 紡月 巳希 @miki_novel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る