やり過ぎた悪役令嬢は森の中でひっそりと暮らす

如月いさみ

第1話 そのまんまの悪役令嬢

 言葉にすれば嫉妬。

 誰からも愛され可愛がられる義妹が憎かった。


 私はフィオレッタ・ウェールズ。

 純魔法家系のエリザベス・ホーリーと公爵家の当主であるアルバート・ウェールズの間に生まれた数少ない魔導士の素養を持つ人間として生まれた。


 しかし、私が8歳を迎えたばかりの頃にお母さまが病で亡くなり、父のアルバート・ウェールズは兼ねてから愛し合っていた女性アンナ・ジョーンズと結婚した。


 アンナ・ジョーンズは魔法家系ではないが優しく穏やかな女性で彼女が連れていたマリナも明るく可愛かった。父は母を失った悲しみなどないかのように直ぐに笑みを見せてウェールズ公爵家は穏やかで優しい空気に包まれた。


 私は……その空気が嫌いだった。

 

 この日も父に呼び出されお小言を聞くことになった。

 父の書斎には多くの本が棚に並びそこに『一応』私も映っている新しい家族の写真が飾られている。


 そんな公爵家に似合いの豪華な部屋の中で父は何時ものように溜息を零して私を見ていた。

「フィオレッタ、マリナのドレスをハサミで切ったそうだが……本当か?」


 これで何度目か分からない同じ言葉を私は聞いて何の感慨もなく返事をした。

「はい」


 マリナが父に言ったわけではない。あの子は告げ口や陰口を言う子ではない。マリナのお付きメイドのアリスが父に言ったのだろう。


「3回くらいは黙っていたみたいだけど……もう5回を超えた頃から父に言うようになったわね」


 私はそんなことを考えながら父の顔を見た。

 別に継母が私を虐めたこともないし最初の頃はマリナを含めて三人でお茶をして交流を深めようとしてくれていた。


 それを拒否したのは私。

 そして、継母に虐められていると嘘をついて父に泣きついたけれどそれも最初の3回ほどで直ぐに嘘がバレて怒られるようになった。


 面白くない。


 もっと。もっと。あの二人が家を出ていくくらい困ればいいのにと思ってる。

 そんなことを考えている私を見抜いているのか父の声が響いた。


「フィオレッタ、お前も13歳だ。これまで家庭教師を付けて勉強させてきたがそれも全然勉強していないようじゃないか。後3年もすれば社交界にデビューしなければならないというのにこれではマリナだけしかデビューさせれないだろ」


 マリナは良い子だもの。

 勉強もできるし屋敷の者たちは誰もが彼女たちの味方。


 まあ、服は破くは嘘を言って陥れようとするわ、そう言えば花瓶の水を業とかけたこともあったわね。


 それでも私の苛立ちは全員で必ず取る食事でMaxになってしまう。

 笑顔で会話をする三人を見るとイライラして仕方がない。


「……ということで、お前もウェールズ公爵家の長女として自覚を持って行動するようにしなさい。そうしなければ社交界デビューはさせられないぞ」


 あら、あら、苛立ちが勝って父のお話を聞いてなかったわ。

 私はもう何十回めか分からないお話に返事をした。


「分かりましたわ、お父様」


 そう言って一礼して踵を返した。

 お母様や私といた頃より幸せそうに笑う父が嫌い。そして、優しく善良で私に手を伸べてくる継母や義妹が嫌い。


「だって、誰も直ぐにお母さまをいなかったことにしたんだもの」


 私は奥歯を噛み締めて窓の外を見下ろし歩いているマリナに笑みを浮かべた。

「ああ、そうだわ。マリナがいなくなればいいんだわ」


 私は急いで部屋に戻ると手紙を書いた。

『いまお父さまに言われて反省しました。仲良くなりたいので北の森の泉へ来てください。待ってます』


 私はうふっと笑ってそれを手に屋敷の階段を降りると花壇をメイドのアリスと歩いているマリナの前に立った。


「フィオレッタお姉さま」


 一歩後退り距離を取りながら私を見つめているマリナに私は笑みを浮かべた。アリスの目が痛いけれど、まあいいわ。


「これを貴方に。いまお父さまに貴方の服を破いたことを怒られたの……これまでのことで書いているんだけど人に見られると恥ずかしいから一人で読んでちょうだい」


 マリナは恐る恐る警戒しながら私の手紙を手にした。

 まあ、当然ね。これまで何度か謝罪の手紙を渡して、また嫌がらせをしてきたんだもの。


 今回もするけれどね。

 私はにっこり笑うと一礼して立ち去った。

「じゃあ、私はこれで」


 北の森は迷いの森と隣接していて境目を越えると空間移動の魔法紙かその魔法を持っていないと中々戻ってこれない。


「まあ、魔法紙は持たせてあげるけどね。でも丸一日開かない魔法の小箱に入れて渡してあげる」


 私はマリナが暫く家にいないことを考えてウキウキらんらんと北の森の泉へと向かった。


 一日くらいいなくなればいい。

 あの継母も困ってこれ以上屋敷に居られないと言えばいい。


 空には青い空が広がり白い雲がほわほわと流れていた。

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