第8話 ダークヒーローの誕生!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 少し前の出来事だ、普通の学生だった茶髪の少年――ユウゴが悪魔化してしまったのは。



「いやだって……、そっちが勝手にぶつかって……」



「……あ? 何だよお前、口答えすんのか? もう一回言ってみろよ? おい。お前、調子に乗ってんのか? 何で黙ってんだよ。何か言えよ」



 校内。当時、気弱だったユウゴは不良に絡まれる事が多かった。だから鬱憤うっぷんが溜まっていたのだろう。やり返す為に彼は力を求めた。



 そう抗魔機関こうまきかんは考えているが――事実は少し異なる。



「…………また絡まれてる」



「だっさぁ」



「学校来なければいいのにねぇ」



「ビクビクして怖がりすぎでしょ」



「あーいうのマジ無理。オタクって感じ」



「何か、かわいそー」



 クスクスと、ヘラヘラと笑う周囲の者達。



 彼らにユウゴは殺意を抱いた。殴ってくる不良なんかより、自分を見て笑う連中を、ぐちゃぐちゃに殺してやりたくなった。




 特に女は自分が殴られないと思っている奴が多い。他人を馬鹿にして、笑って、殴られないと根拠なく安心している。




 だから殺してやりたくなった――二度と人を笑えなくなる様に。他人を馬鹿にしておいて殴られないと安心している奴等を、むごたらしく殺してやりたくなった。




 目の前の不良がどうでも良くなるくらい、ユウゴは周囲の嘲笑を嫌悪していた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「――同じ虐められっ子として、君は共感できるんじゃない?」



 早朝。抗魔機関が所有する寮の一室。メイはユウゴに関する顔写真付きの書類をテーブルに置く。



「……微妙? 僕は虐めっていう行為自体は嫌いじゃないからなぁ。仮に僕が強ければ不良と同じ事していただろうし……。どちらかと言えば、不良の方が共感しやすいかも。格好いいよね、虐めって。他人を馬鹿にして、ぶん殴って、スゲー人生楽しそう」




 書類を手に取り、経歴や能力などに目を通すシンジ。記された内容を見る限り、ユウゴは勉強も運動も苦手な普通の劣等生という印象。




 犯罪歴もなく、周囲からの印象も悪くない。本当に普通だった。




「えぇ……」



 シンジにメイは若干ドン引きした様子をしつつ、両手でカップを持ち、暖かいココアで手を温める。



 そろそろ彼を抗魔機関に入れて一ヵ月が経ち、もう冬に入っている。早朝という事もあり暖房を入れているが、室温は結構低い。




 魔力による体温調整は可能だが、季節感が薄れてしまう。寝間着ねまき姿で肌寒さを感じつつ、メイは暖かいココアの味を楽しんでいた。




「……まぁ、君と違って悪い事が好きじゃないらしい。殺す相手は殆どが不良とか犯罪者。善良な人に危害を加えたがらないっぽい」




 被害者に関する書類が数十枚。別に目を通す訳でもなく、テーブルの隅に置いてあり、メイは視線だけを向ける。




「うわぁ、良い子だなぁ。放置してるだけで日本の治安が良くなりそう。悪人自動掃除機とかマジかよ……。ブレイクスルーじゃん」




 ケタケタと笑うシンジ。被害者が碌でもない連中とはいえ、ユウゴが凶悪な悪魔だということには変わりない。




 だというのに呑気に書類を読みながら、シンジは面白がってた。




「こら。ふざけちゃだめだよ、人が死んでるんだから」



 彼から書類を返され、受け取りながらメイは優しく叱る。



「別に冗談という訳じゃないよ。真面目な話、不良や犯罪者の命に興味なんて湧かない。何人死のうが心は痛まない。そもそも因果応報だよ。殺されたくないなら、真面目に生きれば良かった。それだけでしょ」




 黙って料理をテーブルに置いていくエイルに、シンジは「ありがと。姉ちゃん」と礼を言う。「良いのよ。暖かいうちに食べなさい」と彼女は笑って皿を運び始めた。




「そりゃあまぁ、そうだけど……」



 自分の手前に料理を置かれ、メイも「ありがとね」と礼を言いつつ会話を続けた。



「総裁候補はステマしても責任取らないし、移民が中学生を犯しまくっても不起訴にする社会なんだ。ユウゴ君も許してあげたら? 凄く良い子だよ、彼は。それとも自国民にだけ厳しい政治をするっていうの? 勘弁してよ」




 最近の政治や事件を振り返りつつ、シンジは食パンと目玉焼きを食べ始めた。彼の表情は穏やかで、喋り方も堅苦しくない。




 ただの朝の雑談で適当な事を言っているだけという雰囲気。実際、シンジには強い正義感や信念はない。単純に最近の政治を暇つぶしに面白がっているだけ。




「政治家や不法移民の問題に比べたら些細な事かもね……。ユウゴ君の行為は人によっては正義に見えるかも知れない。ただ……、悪魔退治は僕達の仕事なんだ。分かってくれるよね?」




 メイはシンジをたしなめつつも、若干じゃっかん共感もしていた。立場的に彼女は重鎮じゅうちん達と会う機会が多く、色々と周囲から世間に言えない様な話は聞いている。




 だから彼が冗談交じりに言う事も、メイにとってはあまりに身近な問題過ぎて少々気不味かった。



「……分かってる。やるよ」



 シンジとしてはメイとエッチな事ができれば、大抵の事はどうでも良い。仕事だって面倒だけど大した苦労はなかった。




「ネットの掲示板だと人気みたいだね。次々と政界せいかいに入り込んだ売国奴ばいこくども殺してる所為かな。一部からはダークヒーロー扱いだ。……ちょっと格好いいよね」




 少し行儀が悪いが、携帯を弄りながらメイは食事を進める。見ているのはネット掲示板であり、恐らくニートであろう人達が毎日忙しく書き込みしていた。




「……聞けば聞くほど良い子なんだけど? 寧ろ彼以上に今社会に求められている人材はいない。やっぱり見逃してあげよう」




 面白がる様に笑い、シンジはココアを飲む。



 粉末をペースト状に溶かす程度のお湯しか入れず、残りはミルクを注いで作っているので味が濃い。無駄に美味しくて、意識しないとココアだけで腹が満たされそうだった。




「駄目だって……。政治家たちが何としても早急に倒してくれって泣き叫んでんだから。毎日震える声で鬼電してくるんだよ……。可哀想でしょ?」




「それ泣き叫んでる政治家ちょっと怪しくない? 狙われてもおかしくない様なやましい事情があるんじゃないの? まさか……、ステマしてんじゃねぇだろーな!」



 メイの発言に、すかさずシンジは切り込む。



「どんだけステマ嫌いなんだよ、君……。ステマが嫌いならニュース番組は全部観れなくなるよ? 殆どのコメンテーターが偏向報道っていうステマしてるんだから……」




 立場上色々知っているメイは、テレビ局の実態を理解している。因みに抗魔機関は悪魔を祓うのが務めであり、政治に介入かいにゅうする事は殆どない。




 少なくとも日本の抗魔機関は、民主主義を重んじている。暴力や権力を振りかざし、政治家達にあれこれと命令する事は非常に少ない。




 だから売国奴ばいこくどがテレビ局や政界に入り込んでいると分かっていても、現状は無干渉を貫いていた。



 故に民衆の声は真っ二つ。『暴力で多少無理やりでも売国奴を排除してくれ』という声もある一方、『民意を重んじてくれている。他の先進国みたいに抗魔機関主導の政治になる方が怖い』という声も目立つ。




 メイも色々何が正しいのか考えてはいるが、明確な結論は出ていない。



「……この国腐り過ぎだろ」



 ただただシンジはドン引きしていた。





――――――――――――


 お久しぶりです! 


 まさかの続編です!



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【影武者】―最強の悪魔になった少年は、祓魔師として働く― BIBI @bibi777

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