ケツ毛狩り

浅野エミイ

ケツ毛狩り

 ーーあの日、私の魂は殺されたーー


 という残酷だった過去を振り返るのも、もう面倒くさいくらいにたーっぷり味わったので、今度はその原因となったやつらにちょっとした仕返しをしようと、今日の今日まで働き詰めて勉強しまくってきた。


 そうは言っても私は平和主義者。ケンカや血なまぐさいことは大嫌い。自分がされて嫌なことはしたくないからね。だけども少しばかりはやり返したいじゃん? 


 そう思った私は、『メンズエステサロンの学校』を卒業した。運よく勉強をするお金は貯めたので、ここで学んだことを活かし、これから金持ちのケツ毛までむしろうと思う!


 もちろんエステだからケツ毛狩りばかりが仕事ではない。でも、たまにいる変なセクハラ野郎には「サービスです! 無料券です!」と言いながらケツの毛までむしるレベルの高額施術をオススメする。


 まぁ、高額施術でも色々ある。夏場に流行るレーザー脱毛とか、フェイシャルマッサージとか。

 きれいで若い人ならまだしも、たまにいるキモいおっさんは勘弁して……と思いながらも、その分ケツ毛まで狩らせてもらう。そうすることによって、ある程度私の気分は晴れるらしい(私調べ)。


 キモいおっさんにはできるだけ高額なクリームや化粧水、オイルを使ったフェイシャルエステを勧めるけど、なんだかんだで少しはきれいになるし、私はムカつく相手のケツ毛をむしった上に金をもらえるんだからちょっと憂さは晴れるんだよね。ちなみにケツ毛を抜く時はレーザーを使うんだけど、実は少し痛いらしい。


 本心を言うなら、ケツ毛くらい自分で処理してほしいんだけど、そうなると職がなくなるというジレンマは抱えている。そこは少々問題だ。


 だけども本来なら美を追求する崇高な理念のもとで働かなくてはならない……。それは十分わかってはいる。だからできるだけ気分を穏やかにしていきたい。そのためにはまだまだ心のリハビリが必要そう。


「お、美人なねーちゃんじゃん。声かけちゃう?」

「やめとけ、あそこのエステの一番稼ぎだぞ」


 今やなぜかナンパですら声がかからなくなったのはありがたいのかなんなのか。


 ゆっくりでもいいから、私は私自身を優しく癒やして行こうと思う。どんな過去があったって、人生は必ずハッピーエンドになる。私はそう、信じたい夢想家なのだ。

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ケツ毛狩り 浅野エミイ @e31_asano

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