第四話 影の照準

配信予定表に「FPSコラボ」と赤文字で記されていた。

新人ユニット《Stella Nova》にとって初めての対外的なゲーム配信。

その練習のため、三人はスタジオのPCに並んで腰を下ろしていた。


ヘッドセットを装着し、マウスを握る。

それぞれの表情に、性格の差がそのまま浮かんでいた。


「よーし! 敵を全部倒して、トップ取っちゃうぞー!」

明日香が元気よく叫ぶが、直後にWキーを押しっぱなしで突撃し、敵の集中砲火を浴びて即ダウン。


「え、え、ちょ、もうやられた!? 早すぎるって!」


スタジオに笑いが漏れる。


天音はマップの隅で身を縮めるようにキャラクターを動かしていた。

「ひ、人が……! 来る……! えっ、どうしよう……」

焦ってマウスを振り回し、撃つ前に自分が倒される。


「……ご、ごめんなさい」


声は震え、指先も小さく震えていた。


透花は冷静そのものだった。

「……敵一人、撃破」

正確なエイムでヘッドショットを決め、すぐにもう一人を落とす。

だが、そのまま敵陣に突っ込み、味方が追いつく前に囲まれてダウン。


「……チッ。援護が遅い」


悔しそうに舌打ちをするが、それは仲間への苛立ちというより、自分の不器用さへの苛立ちだった。


「……ちょっと止めて」


凛が声を上げた。

三人はヘッドセットを外し、凛の方を見る。


「明日香。突っ込むのはいいけど、Wキーは離さないと死ぬわ。

 必ず退路を残しなさい。マップの確認も忘れないこと」


「は、はいっ!」


「天音。撃つ瞬間だけ息を止めて。呼吸に合わせれば、手の震えは止まる」


「……呼吸……はい」


「透花。腕は悪くない。でも一人で前に出すぎ。

 FPSはチームで勝つゲーム。位置取りを覚えなさい」


「……わかった」


再び練習が始まる。

明日香は無謀に突っ込まず、しっかり退路を確保して立ち回る。

天音は呼吸に集中し、狙った弾が初めて敵に当たった。

透花は一人で突っ込むのを抑え、仲間を意識してカバーに回った。


「やった! 生き残った!」

「……当たった……本当に当たった……」

「……ふん。確かに、三人で動いた方が強いな」


三人の歓声がスタジオに響いた。


凛はモニターから目を離さず、小さくうなずく。

戦況を俯瞰するその瞳は、かつて《Noir》と呼ばれた者の眼差しそのものだった。


「……少しずつ、形になってきたわね」


止まっていた時計の針が、またひとつ進んだ気がした。


To Be Continued...

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