第二話 焼け落ちた光

モニターに映る歓声は、まだ耳に残っている。

ステージのライト。大画面に映し出された「Victory」の文字。

――高校二年の春、私は世界一になった。


プレイヤーネームは《Noir》。

顔も声も出さない影の王者。

それでもネットは沸き立ち、海外メディアまで私を「影の女王」と呼んだ。


ゲームも、ダンスも、歌も。

私は才能に恵まれたと思っていた。

努力もした。

勝つこと、認められること、称賛されること。

それが、すべてだと信じていた。


――けれど、崩れる時はあっけなかった。


二年目の世界大会。

仲間が配信で不適切な発言をし、炎上した。

私は直接関係なかったはずなのに、「同じチームだから」と叩かれた。

SNSは罵倒で埋まり、過去の勝利すら「まぐれ」と言われた。


ダンスの舞台では、練習中に足を痛め、大会を棄権した。

歌のライブでは、「上手すぎて機械みたい」と笑われた。

――気づけば、どの居場所もなくしていた。


三年前の私は、燃え尽きた。

部屋のカーテンを閉ざし、母の声も拒み、光を見ないように生きた。


「凛、もう一度舞台に」

その言葉を聞くだけで胸が軋んだ。

光の中に立つことは、もう恐怖でしかなかった。


……だから私は、止まってしまった。

何をすればいいのかも分からないまま。

ただ時間だけが、過ぎていった。


「凛」


現実に引き戻す声。

振り向けば、母が立っていた。

手に一枚の書類を持って。


「Stella Nova、三人の新人ユニットよ。あなたに任せたい」


差し出されたプロフィール写真。

無邪気に笑う子、怯えながらも真剣な子、強がる子。

どの顔も、不安定で、今にも折れてしまいそうだった。


「……私に?」


震える声が漏れた。


母は微笑んだ。

「そう。あなたにしかできないわ」


胸の奥で、止まっていた時計がほんの少しだけ動いた気がした。


To Be Continued...

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